90年代UKロック史の金字塔、ザ・ヴァーヴ『アーバン・ヒムス』の10の秘密

『アーバン・ヒムス』と『宇宙遊泳』、1997年英国を象徴する2枚の名盤を生んだ因縁の三角関係

以前、レディオヘッドの『OK コンピューター』とと共に1997年のUKの名盤を特集したコラム(https://rockinon.com/news/detail/162876)を書いた際にも、ヴァーヴの『アーバン・ヒムス』についてもちろん書いたし、スピリチュアライズドの『宇宙遊泳』も名盤10枚のうちの1枚に選出した。そしてこの97年の英国を代表する2枚の名盤には、実は深い因縁があったのだ。

その因縁とはずばり、リチャード・アシュクロフトとジェイソン・ピアースとひとりの女性をめぐる愛憎の三角関係。ジェイソンの恋人であり、スピリチュアライズドのメンバーでもあったケイト・ラドリーをリチャードが略奪し、後に結婚。ショックを受けたジェイソンの傷心と絶望、そして薬物への逃避の末に生み出された傑作が『宇宙遊泳』であり、このアルバムには死にたくなるほど美しい失恋ソング“Broken Heart”が収録されている。

ちなみにリチャードとケイトの出会いは1995年、ヴァーヴがスピリチュアライズドと回ったツアー中の出来事であり、ケイトはジェイソンをフッてすぐにリチャードと付き合い始めた。にも拘らず、ケイトは1997年当時まだスピリチュアライズドに在籍していたのだから、『宇宙遊泳』制作時のジェイソンの地獄的状況は想像に難くない。

一方でリチャードもケイトとの出会いが無ければ狂気的ジャンキー生活から抜け出すことは出来なかっただろうし、“Sonnet”のようなナンバーも生まれなかっただろう。そんな、稀代の天才2人を翻弄したケイト・ラドリーとはどんな女性なのか?と気になった方はスピリチュアライズドの“Electricity”のミュージック・ビデオで確認を。ジェイソンの隣にいる美しい長い黒髪の女性です。

Spiritualized - Electricity


90年代から今日まで続く、リチャード・アシュクロフトとギャラガー兄弟の深い絆

オアシスの1995年のアルバム『モーニング・グローリー』収録の“Cast No Shadow”が、自身の深刻なメンタル問題とヴァーヴの解散問題のダブルパンチで酷い状態にあったリチャード・アシュクロフトに捧げられたナンバーであるのは有名な話。ヴァーヴとオアシス、リチャードとギャラガー兄弟は北部育ち同士で気が合ったこともあり、90年代から現在までずっと親交が続いていて、リチャードが昨年『ジーズ・ピープル』でカムバックを果たした際にも、リアムが「あんたの歌声がまた聴けて嬉しいよ」とツイートしていた。また、「リアムやノエルとコラボしないのか?」と問われたリチャードが、「ふたりと仲がいいから、どちらかとだけ仕事をするのは気が引ける」と言っていたのも印象的だった。

『アーバン・ヒムス』ではリアム・ギャラガーが“Come On”に参加している。そのコラボの顛末について、リチャードがBBCレディオ6の最新インタビューで語った内容はこちらで。

“Bitter Sweet Symphony”のミュージック・ビデオ、元ネタはマッシヴ・アタックのあの曲

“Bitter Sweet Symphony”と言えば、リチャードが歩行者を突き飛ばしながら傍若無人にずんずん歩くミュージック・ビデオが有名。ちなみにノース・ロンドンの繁華街、ホクストン通りで撮影されたこのミュージック・ビデオには元ネタになったと言われている作品があり、それがマッシヴ・アタックの1991年のシングル“Unfinished Sympathy”のミュージック・ビデオだ。見比べてみてどうでしょう?

Massive Attack - Unfinished Sympathy

ブリットポップの終焉を象徴した最後の打ち上げ花火、『アーバン・ヒムス』

1997年9月にリリースされた『アーバン・ヒムス』は全世界で1000万枚を超えるセールスを記録。UK国内での320万枚という数字は、同年8月リリースのオアシス『ビィ・ヒア・ナウ』の180万枚を遥かに凌ぐ成功で、このことからヴァーヴは「オアシスに代わるブリットポップのトップランナー」であるという見方も、当時は少なからずあった。しかしヴァーヴの『アーバン・ヒムス』がブリットポップの最新ヒットではなく、ブリットポップの「最終ヒット」であったとシーンが気づくまでにそう時間はかからなかった。

当時の記憶として鮮烈なのが、同年8月31日にダイアナ元妃が亡くなった際に、追悼曲としてエルトン・ジョンの“Candle in the Wind”と並んで何度も流されていたのが“Bitter Sweet Symphony”だったことだ。ダイアナ元妃の死で哀しみに包まれる英国と、クール・ブリタニアの落日。ブリットポップの終わりと共に『アーバン・ヒムス』が想起するのは、そんな1997年の風景だ。

The Verve - Sonnet


『アーバン・ヒムス』20周年記念デラックス盤はここに注目!

というわけで、改めて『アーバン・ヒムス』の20周年記念デラックス・エディションの注目ポイントを整理しておこう。ここで大前提となるのは、必ず2CDのデラックス・エディションを買ってください!ということ。なぜならDISC2が今回のリイシューの最大の目玉だからだ。このDISC2に収録されているのは、ヴァーヴが1998年5月に地元ウィガンのハイ・ホールで行ったライブの音源で、33000人を集めた同ライブは、「オアシスのメインロードのヴァーヴ版」とでも呼ぶべき歴史的凱旋公演だ。当時の日本の私たちが来日を熱望して止まなかった、まさにキャリアの極点にあったヴァーヴを記録した音源なのだ。

欲を言えば、5CD+1DVDのスーパー・デラックス・ボックス・セットも入手を検討していただきたい。こちらでは当時VHSでしかリリースされなかったドキュメンタリー、『The Video 96-98』のDVD化が実現しております!!(粉川しの)
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