若きダーティ・ヒーロー、キング・クルールの新作『The OOZ』が凄い

  • 若きダーティ・ヒーロー、キング・クルールの新作『The OOZ』が凄い - photo credit: Frank Lebon

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King Krule - Half Man Half Shark

この10月にリリースされたキング・クルールの2ndアルバム『The OOZ』は、UKアルバム・チャートで初登場23位を記録した。ベックセイント・ヴィンセント新作と同じタイミングでリリースされ、しかもその上にはP!NKロバート・プラントの傑作があるのだから、充分な健闘と言えるかもしれない。しかし『The OOZ』は、それだけで片付けるのが余りに惜しい作品である。

キング・クルール名義で4年ぶりとなるこの新作(2015年には本名のアーチー・マーシャル/Archy Marshall名義で限定アルバム『A New Place 2 Drown』もリリースされた)は、端的に言えば現代のアウトロー・ミュージックの結晶のような一枚だ。ダウナーで不穏なビートミュージックのムードをバンドサウンドによって再構築し、ジェームス・チャンスの如きひしゃげたジャズや酩酊したブルースの濃いヴァイブと練り合わせ、一人閉じ籠って延々と浸っていたくなるほどの危うい陶酔感が立ち込めている。

King Krule - Dum Surfer

先行シングルの“Dum Surfer”は、リスナーに対し誠実な分だけ挑発的に、陰鬱とした気分を音楽で共有することの意味を伝えるナンバーだった。若い細身の体躯には似つかわしくないほどの嗄れたバリトンボイスはキング・クルールの最も特徴的な武器だが、新作曲の“Slush Puppy”あたりではエルヴィスのバラードやチェット・ベイカーばりの甘い美声にも磨きがかかっていて驚かされた。

King Krule - The Noose of Jah City

ロンドン出身、現在23歳のキング・クルールことアーチー・マーシャルは、学生時代にズー・キッド/Zoo Kid名義で音楽活動をスタートさせた。最新作のタイトル『The OOZ』は、Zooのアナグラムではないだろうか。キング・クルール名義で2011年にトゥルー・パンサー・サウンズからセルフタイトルのEPをリリースしたときは、当時流行していたトリップホップ/ダブステップ由来の感性を持つ世代のシンガー・ソングライターという印象で、恥を忍んで言うと個人的には深い感銘を受けることはなかった。

King Krule - Easy Easy

2013年のデビュー・アルバム『6 Feet Beneath the Moon』で、彼はそれまでのスタイルと鋭利なポスト・パンク、ダーク&サイケなギターサウンドを掛け合わせ、ブルージーでインパクト絶大な歌声を剥き出しにする。ジェイムス・ブレイクらがアンダーグラウンドなダンス・ミュージックを新たな王道ソウルへと昇華させる一方で、このときキング・クルールは退廃した街の風景に生きる若きダーティ・ヒーローという佇まいを確立していた。

デビュー・アルバム収録のジャジー&メロウなヒップホップを彷彿とさせる“Neptune Estate”は、陰鬱としながらもロマンチックな最新作のムードに連なる作風の礎を築いていたと言えるだろう。ポップ・ミュージック史に息づく日陰者の思いを汲み上げ、そこにキング・クルールとしてのアイデンティティを重ねてゆくという物語は、作品ごとに飛躍的に精度を向上させて『The OOZ』で完成したと言える。

新作の“Bermondsey Bosom (Left)”、“Bermondsey(Right)”という2作のポエトリー・リーディング作品(前者は女声のスペイン語、後者は男性の英語で朗読をフィーチャー)では、《Six feet Beneath the Moon》のフレーズが引用され、孤独な魂が育むロマンチックな夢想を伝えている。まるで彼自身が伝えようとしてきたことを補完するような、説明的な2トラックになっていた。

そしてアルバムの本編ラストを飾る“La Lune”は、まさに日陰者としてのアートを生み出しながら生きる覚悟が滲んだナンバー。音楽的な充実と個性をきっちりと構築してみせたキング・クルールの『The OOZ』は、それ以上に、荒んだ心情と不可侵な孤独を生々しく伝える歌でしか救えないものがあるということを、多くの人に理解させる作品だと思う。(小池宏和)

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