UNISON SQUARE GARDENとアニメ『3月のライオン』が共通して持つ特別な「温かさ」について

UNISON SQUARE GARDENとアニメ『3月のライオン』が共通して持つ特別な「温かさ」について
プロ棋士少年・桐山零と彼をとりまく人々の生活と成長を描く羽海野チカの大人気コミック『3月のライオン』。そのアニメシリーズは2016年10月より放送され好評を博しているが、現在放送されている第2期シリーズ第2クールOPテーマをUNISON SQUARE GARDENが担当している。『3月のライオン』とユニゾン。ありそうでなかった組み合わせだ。

その曲、“春が来てぼくら”が初めてオンエアされた第34話は、中学2年生の川本ひなたが自身が通う教室内で起こっているいじめについて川本あかり(姉で現在母親代わり)に告白するエピソードだったため、全体的にヘビーな内容だった。コミカルな要素もある作品だし、毎回こういう空気感というわけではないのだが、桐山零だけではなく登場人物をとりまく様々な種類の「闘い」を取り扱っていく物語の特性上、シビアな話をしている回は比較的多かったりする。BGMもほとんどなく、音声の大半を占めるのは効果音と台詞。だからこそ冒頭に流されたその曲を聴いた時、おなかの奥の方から温かくなるような感覚を覚えた。「(前略)いつもの自分の取り組み方で、作品の片隅で微かな光を放ってくれるように作品と1から向かい合うつもりで書きました」という作詞作曲・田淵智也(B)の
コメントもかなりしっくりくる。

葉の形がライオンの歯に似ていることに由来し、「ダンデライオン」という別名を持つ植物=タンポポをモチーフとして用いているところも心憎いが、転調を多用した展開が“春が来てぼくら”の大きな特徴だろう。歩速ぐらいのミディアムテンポ、柔らかいが芯のある歌声も相まって「聴き手を急かすことも背中を押すこともしないが、ふと前を向かせてくれる」程度の、絶妙なバランス感を実現。1分29秒間で最も華やかな転調をするのが、ストリングスの音色も絡まるサビ突入時なのだが、ここで重要なのは、そのサビで歌われているのがたわいもない日常の風景であること。なぜかというと『3月のライオン』は、川本家の夕食シーンに代表されるような、そういう描写を欠かさずに行なっている作品だからだ。

おいしいご飯を食べながらみんな一緒に笑い合う。外に出て「闘い」へ向かう。「闘い」を通してひとりずつ学びながら成長する。そしてまたあの食卓へと戻る――「闘う相手はどんな時も自分自身」、「しかし独りなのは自分だけではない」ということと向き合い、足掻きながら成長する人の姿をつぶさに捉える『3月のライオン』にとっては、この一連の流れが大きなポイントになっているのだ。

自分を失いさえしなければ点はいつしか線になり、人と人とが結ばれて、それは円になっていく。『3月のライオン』は孤独と向き合うことによって始まる、とんでもなく大きな愛の物語。そしてこれはよく考えると、ユニゾンのライブの構造と似ているかもしれない。コール&レスポンスはもちろんのこと、3人はオーディエンスのリアクションを煽ることは一切せず、自分たちの好きな音楽を思いっきり鳴らして帰っていくだけ。観客側もカッコいいロックバンドを観ながら勝手に心を高鳴らせて、幸せな気持ちになって帰っていくだけ。「一体感」が生まれることはないが、終演後に広がるのは清々しい表情。だからみんなまたライブハウスにやってくる。

「人は独りなんかじゃない」と安易に結論づけることなく不可侵な「一人」を尊重するということと、だからこその、温かさ。『3月のライオン』とユニゾンの共通点、そして私が両者に胸を熱くさせてしまう理由はそういうところにあるのだと改めて気づかされた。(蜂須賀ちなみ)
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