【徹底復習】アークティック・モンキーズ、新章へ。彼らの12年間が示す、彼らにしかできないこと

  • 【徹底復習】アークティック・モンキーズ、新章へ。彼らの12年間が示す、彼らにしかできないこと
  • 【徹底復習】アークティック・モンキーズ、新章へ。彼らの12年間が示す、彼らにしかできないこと
  • 【徹底復習】アークティック・モンキーズ、新章へ。彼らの12年間が示す、彼らにしかできないこと
  • 【徹底復習】アークティック・モンキーズ、新章へ。彼らの12年間が示す、彼らにしかできないこと
  • 【徹底復習】アークティック・モンキーズ、新章へ。彼らの12年間が示す、彼らにしかできないこと
  • 【徹底復習】アークティック・モンキーズ、新章へ。彼らの12年間が示す、彼らにしかできないこと

『Humbug』(2009)


アークティック・モンキーズ本体の話に戻ろう。彼らは2009年にサード・アルバム『ハムバグ』をリリースしている。つまり、アレックスは2006年から2009年までTLSPを含むと毎年フル・アルバムを作り続けていたということになる。2000年代後半の彼らがいかにとんでもない成長期にあったかがお分かりいただけるはずだ。

そしてこの『ハムバグ』を語る上で欠かせないのがクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムの存在だ。フォードと共に本作のプロデュースを手掛けたオムは、俗にストーナー、デザート・ロックと称される粘り越しのグルーヴを本作で彼らに直伝したわけだが、それ以上に彼が果たした役割で大きかったことは、アークティックの4人を「外に連れ出した」ことだろう。

本作はバンドにとって初のアメリカ・レコーディング作であり、シェフィールド育ちの彼らにとってフォードと行ったNYレコーディングはともかくとして、オムに誘われて向かったモハーヴェ砂漠に至ってはほぼ別の惑星に降り立ったようなものだったはずだ。結果的に本作はアークティックを語る際に用いられてきたUKロックのスケールを打ち壊し、彼らを等身大の物語から解放するきっかけとなった。

アレックスは『トランクイリティ〜』のSF的コンセプトについて「自分の身近な現実・周辺よりも先のエリアにあることについての曲を書きたかった」と語っていたが、それはこの『ハムバグ』のコンセプトに近いものがあるのだ。



『Suck It and See』(2011)


2000年代後半のアークティック・モンキーズがスポンジのように吸収し続け、成長・変化続けるフェーズにあったとしたら、2010年代に入って初のアルバムとなった『サック・イット・アンド・シー』は、彼らが初めて「立ち止まった」ようにも聞こえたアルバムだった。

立ち止まり、その場で足元を深く掘り下げるように自分たちのソングライティングを見つめ直した作品であり、過去の大胆な足取りと比較すると彼らのディスコグラフィーの中で最も地味な作品であることは否めない。

しかしソングライティング主義を極めた結果、ポップ・ソング集として非常に優れたアルバムとなっているのも事実で、アレックスがTLSPとこの『サック・イット・アンド・シー』で培ったドリーミーでシアトリカルなポップ・センスは、『トランクイリティ〜』でも活かされているのだ。



『AM』(2013)


そして、デビュー以来脈々と続いてきた彼らの飽くなき探究心と発見の連続が、前作『サック・イット・アンド・シー』で再測定されたバンドのソングライティングの核とがっぷり組み合い、揺るぎなき表現体となったアークティック・モンキーズが生み出した最高傑作が『AM』だ。

自分たちの名前を冠した本作にはハード・ロックやストーナーを基調に、メタルにサイケデリック、ブルースとこれまでの彼らの歩みのおよそ全てが内包されていたし、同時にヒップホップとR&Bを大胆に導入し、これまでの彼らとはかけ離れた領域に足を踏み入れたチャレンジ作でもあった。ただし、本作の凄さはヒップホップとR&Bがギター・ロックから遠ざかるための道具ではなく、それらを全て包括できるほどに彼らのロックンロールが揺るぎないスタンダードを獲得していたことだ。

ロックのサブジャンル化、ニッチ化が急速に進んだ2010年代にあって、このアルバムによって守られたロックンロールの領域、バンド・サウンドの尊厳は計り知れないものがあったし、エディ・コクランを彷彿させるリーゼントでキメた当時のアレックスのビジュアルにも、彼らがそれを自覚的に背負っていたことが伺える。

『AM』は本国のみならず、アメリカで初めてミリオン・セールスを記録したアークティック・モンキーズのアルバムとなった。そう、『AM』はまさに2010年代のロックのユニバーサル・デザインを刻んだアルバムだったのだ。


あれから5年の歳月が流れた。『AM』のツアーが終わったとき、「あるチャプターの幕が閉じたと感じた」とアレックスは語っている。実際、『AM』はアークティック・モンキーズの最初の集大成作であり、彼らだからこそ作りえたモダン・ロックのスタンダードだった。

そしてそのスタンダードに基づいた作品を再生産するのではなく、リセットすることを選んだのが『トランクイリティ〜』だ。そしてそれが出来るのはアークティック・モンキーズしかいなかったということを、彼らのこれまでの12年間が証明しているのだ。 (粉川しの)



アークティック・モンキーズの最新インタビューは現在発売中の「ロッキング・オン」6月号に掲載中です。
お求めはお近くの書店または以下のリンク先より。
【徹底復習】アークティック・モンキーズ、新章へ。彼らの12年間が示す、彼らにしかできないこと - 『rockin'on』2018年6月号『rockin'on』2018年6月号
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする