「レコーディングに対してこんなにも困惑を覚えたことはなかった。どうして俺は、『ネヴァーマインド』や『ブリーチ』の時みたいな感情の昂ぶりを感じられないんだろう?と。
俺たちは間違いなく、求めていたサウンドを具現化したし、最終的には予想通りのものになってた――少なくともドラムスとギターについては」
粗暴にしてキャッチーなギター・リフを伴ったヴァース〜コーラス〜ヴァースの反復によって爆発させる、鬱屈した憤怒と絶望。ロック史上屈指に名盤が多産された1991年にあっても、やはり『ネヴァーマインド』でニルヴァーナが完成させた発明は、未だ80年代を引きずる当時のムードを刷新したその衝撃度、また2021年現在を含め、後世に与え続ける影響力に鑑みても、やはり別格と呼ぶに相応しい。掛け値なしに「世界を変えた」1枚だ。
これはそんな金字塔のリリースから約2年、彼らが最終作『イン・ユーテロ』をリリースするタイミングで行なわれたインタビューである。ここでは、世間が彼らに抱くイメージと文字通り一変した周囲の環境とのギャップ、『ネヴァーマインド』の破格の成功がもたらした負の影響によりカート・コバーンの精神が限界に達しつつあることが、直接的な発言からも行間からもかなり痛々しく滲んでいる。
また、彼が口にする少なからぬ諦念を孕んだ苛立ちには、今日彼と似た状況に置かれるスターの苦闘と重なる部分が少なくないように思える。我々はいつでも何度でも、彼を失った経験から学び直す必要があるのかもしれない。(長瀬昇)
カート・コバーンのインタビューは、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。