これが今、最も本質的なバンドミュージック――
PEOPLE 1、その狂騒のポップの奥に潜む、孤独と祈りの世界を考察する
文=天野史彬
前に一度だけ、PEOPLE 1の3人に取材をさせてもらったことがある。2021年の暮れ、1stフルアルバム『PEOPLE』がリリースされる頃のことだった。当時は、まだメンバーの顔出しもされていなかったし、「東京に拠点を置く3人組」ということ以外の詳細な情報は何もなかった。PEOPLE 1は謎に満ちた秘密の存在だったのだ。ただ、事前に聴かせてもらった『PEOPLE』という作品を、私はとても好きになっていた。曲はポップだが、歌詞の端々に、繊細で、生々しい質感を感じていた。
その時の取材の中で、PEOPLE 1の発起人でありコンポーザーであるDeuは、「セルアウトをするためにPEOPLE 1を始めた」と語った。セルアウトというのは、要は、「売れることがいちばん」というような意味である。そして驚くべきことに、そんなことを言いながら、Deuは、おおよそセルアウトを目的とした人間が言わなそうな発言ばかりをしていた。「放っておいてほしい」とか、「PEOPLE 1は終わりが決まっている」とか。乱暴にまとめてしまえば彼の言葉は内省的で、自虐的だった。彼は「売れることを目的としている」と言いながら、あからさまに人が喜びそうなメッセージとか、わかりやすくエモい話とか、テンションの高い人たちが涎を垂らしてSNSで拡散してくれそうな格言とか、そういうことは何も言わなかった。彼は、自分を無理に大きく見せることも、きれいに見せることも、自分を虚飾するようなことも、言わなかった。「嘘をつかない人、あるいは、つけない人だ」と思った。もちろん、これは私の勝手な受け取り方で、Deuは「勝手なこと言うな」と言うかもしれないが。(以下、本誌記事に続く)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年8月号より抜粋)
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