【JAPAN最新号】ヨルシカ、朗読劇×音楽で描いた幻想的物語「月と猫のダンス」追加公演レポート。動物たちがもたらす不思議なインスピレーション──その「懐かしさ」の正体とは?

従来のヨルシカのライブではn-buna(G・Composer)が曲の合間に朗読を行い、バンド演奏とsuis(Vo)の歌声とでひとつの物語を浮かび上がらせていくというスタイルがひとつの様式となっていたが、昨年4月から6月にかけて行われた「月と猫のダンス」は、アクターが朗読劇で物語を進行させる構成で、より演劇的な趣が強い。今回はその舞台の再演で、東京・有明アリーナでの2デイズ公演。その最終日を観た。

朗読劇を担うアクターは、前回ツアーでは名古屋と大阪の公演に出演していた村井成仁。この村井の演技が観客の物語への没入を促し、ヨルシカの示すテーマをとても見事に表現していた。この「月と猫のダンス」が生まれたきっかけは、言うまでもなく昨年4月にリリースされた音楽画集『幻燈』にある。ヨルシカは、ドローイングの技法を用いた映像作家として活躍する加藤隆とのコラボでこの前代未聞の「画集」を作り上げた。『幻燈』は2つの章から成り、「月と猫のダンス」は第2章の「踊る動物」のイメージから派生した物語だ。「踊る動物」は、夏目漱石の『夢十夜』からのインスパイアも色濃い。漱石がその「第一夜」で書いた、夢で「百年待っていて下さい」「きっと逢いに来ますから」と告げる女性の物語には、「月の光」も印象的に描かれている。ヨルシカは「月光」というライブを過去に行っており、それはアルバム『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』で描いた「エイミーとエルマの物語」をベースにしたものでもある。もちろん今回の「月と猫のダンス」もそれと無関係ではないはず。そう。ヨルシカの世界はすべてがつながっている。ただそのつながりは明確に表現されるものではないため、受け取り手は漠然と「この風景は前にも見たことがある」、「これはいつか抱いた感情に似ている」と、不思議な「懐かしさ」を覚えることがしばしば。そして自分自身のリアルな生においても、この不思議な「懐かしさ」を感じる場面はある。「月と猫のダンス」は、その「懐かしさ」の正体を、ヨルシカがいつにも増してわかりやすく表現してくれたライブだったと思う。(以下、本誌記事に続く)

文=杉浦美恵
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)


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