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    村上春樹『職業としての小説家』を読んで

    村上春樹『職業としての小説家』を読んで
    9月19日に発売されるCUTに掲載する自分が担当したインタビューのなかに、たまたまだが2本も村上春樹氏の小説が話題に出たものがあった。
    そして、それらの記事の校了をしたあとに、書店でこの自伝的エッセイが出ているのを見つけて、買って思わず一気に読んでしまったのだがーーすごい本だった。
    何がすごいのかというと、村上春樹がある意味、全くすごくない普通の人だということが何の誇張も謙遜も、もちろん嫌みもなく理解できるように、この1冊で説明し尽くされているからである。

    これらの文章は、誰に依頼されたわけでもなく自発的に、自分自身のために五、六年かけて書きためられたものだそうだ。
    言うなれば、特に日本ではほとんど受けることのない「インタビュー」で(その辺の事情も詳しく書かれていますが)聞かれるような質問であり、もし受けたとしても氏にとっては限られた時間内では答えられないぐらい正面きった質問に、あえて答えるように書かれているのである。
    つまりもしかしたら、もうこれからさらにインタビューは必要なくなってしまうのではないかといくらい完璧に、村上春樹自身が村上春樹にインタビューをして本質的なことはすべて語り尽くしてしまったような内容になっている。

    僕がそこから感じたのは、精神の自由だけは強い心で死守しながら「何も書くことがない」ということを書き続けること、そこからあの村上春樹の小説たちが生まれているのだという驚き。
    そして、そのあと不思議な納得感が訪れる。

    ファンの方の多くはもう手に取っていると思いますが、そうではない人にどう響くのかも個人的には気になる1冊でした。(古河)
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