アニメ『3月のライオン』とBUMP OF CHICKEN“アンサー”について

アニメ『3月のライオン』とBUMP OF CHICKEN“アンサー”について
昨日、いよいよアニメ『3月のライオン』がスタートした。
主人公の零くんの中にある荒涼とした心象風景も、そことのギャップもあって涙が出てしまうくらいほかほかな川本家の空気の尊さも、それぞれにシャフトにしか、新房昭之監督にしかできないアニメ手法/演出術も駆使しながら見事に描かれていた。
このアニメを入り口にして『3月のライオン』を知ってもらっても、ちゃんと原作の持つ「命」を自分の「命」として、余計なもので濁らせることも、大切なところをこぼすこともなく表現できる必然性と理解度と表現技術を兼ね備えたクリエイターが作っているから、何の問題もない。
とにかく、このままじっくり丁寧に1話1話、あの『3月のライオン』を描き続けてくれたら、原作を読んでいる人も読んでいない人もすごいところに連れていかれてしまう、そんな予感に興奮を抑えられない第1話だった。
そしてBUMP OF CHICKENによる主題歌!
やはりバンプと『3月のライオン』の組み合わせは奇跡としか言いようがない。
エンディングは、以前に両者がコラボレーションして誕生した楽曲“ファイター”。
何て深いところで音楽とコミックの対話が成されて生まれている楽曲なんだろうと改めて驚く。
そして書き下ろされたオープニング曲“アンサー”。
オープニング映像とのリンクの仕方が本当に素晴らしいのだが、まだ深く暗く冷たい水の底にいる零くんの心がこれから出会うもの、闘うもの、守るもの、信じられるようになるものを、やはり何も濁らせず、何もこぼさずリアルに示しながら、「物語」の背中を気の遠くなるような未来の始まりに向かって力強く押す楽曲になっている。

僕は2014年の“ファイター”でのコラボレーションに幸運にも深く関わることができて、そのコラボについての公式の紹介文を書かせてもらい、CUTの表紙巻頭特集で藤原基央×羽海野チカ対談取材もさせてもらったのだが、改めて当時書いたり、バンプのメンバーや羽海野先生と話したことを思い出し、当然かもしれないけれど何もかもブレずに今回のコラボレーションまで繋がっていることに感動してしまう。
引き続き、CUTは両者の運命的な繋がりから生まれる奇跡を追い続けていくつもりです。
以下がその、当時、公式に書かせてもらった紹介文。
「BUMP OF CHICKEN×『3月のライオン』のコラボレーションが奇跡的である理由」というタイトルでした。
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BUMP OF CHICKENと羽海野チカのコミック『3月のライオン』がコラボレーションをするという話を初めて聞いたとき、鳥肌が立った。
音楽とコミックのコラボレーション――よくあることのように一瞬、思えるかもしれないが、普通はその間にはテレビアニメとかドラマとか映画といったものが挟まらなければ成立しない。しかし、今回のコラボレーションにそれはない。にもかかわらず実現に至った。いや、むしろこの両者のコラボレーションに何かが挟まっていてはいけなくて、ダイレクトでなければならなかった。BUMP OF CHICKENの音楽が伝えてきたことと、『3月のライオン』が伝えてきたことの間には、あまりにも特別な、奇跡的とも言えるような共通点があるからである。
『3月のライオン』の主人公は、幼い頃に事故で父と母と小さな妹を失い、心に傷を負ったまま将棋のプロ棋士となり、孤独な生活を送っていた少年・桐山零。2007年に『ヤングアニマル』で連載がスタートして以来、この作品を読みながら、個人的に僕は、自然と心の中でBUMP OF CHICKENの音楽が鳴るのを感じていた。たとえば生きている意味を見失ったまま生きることに導かれる零の姿に“ハルジオン”を、戦う棋士の性としてまわりのモノを喰いちぎってでも生きる道へと手が伸びてしまう零の姿に“ギルド”を、引き取られた幸田家のなかに存在しているだけで義理の姉弟たちの命を押しのけてしまうことに気付き家を出た零の姿に“カルマ”を、僕は重ね合わせながら読んだのである。そして川本家の3姉妹や「放課後将棋科学部」の人々などとの交流のなかで生きる意味や喜びを取り戻していく零の姿と、消えない悲しみや痛みがあるからこそ“HAPPY”や“ray”といった強く明るい楽曲を生みだしてしていく近年のBUMP OF CHICKENの姿は、もはや自分の中でもどちらが先かわからない形で重ね合わさっている。
もちろんこれらのBUMP OF CHICKENの楽曲と『3月のライオン』の物語は、勝手に僕が重ね合わせているだけで、直接的に影響を及ぼし合っているわけではない。しかし偶然に共通点を持っているわけでもない。お互いがお互いのファンであることは確かだが、そんな単純なことでもない。敢えて言葉にするなら、「生きること」に同じ真剣さで向き合って表現活動をしている両者が、必然的にシンクロしているということである。
BUMP OF CHICKENと『3月のライオン』がコラボレーションする――それはふたつの、別個でありながら同時代を同感覚で生きる物語が奇跡的に交錯する瞬間である。そこにどんな楽曲が生まれ、どんな漫画が生まれるのか。その誕生の瞬間が、それぞれのファンとして待ち遠しくてたまらない。

(古河)
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