有吉がテッドなのか、テッドが有吉なのか

有吉がテッドなのか、テッドが有吉なのか

本日発売のCUTに掲載している編集後記です。
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アメリカでR指定ながら大ヒットした、マーク・ウォールバーグ主演の映画『テッド』が、日本でも、4週連続ナンバーワンという異例の大ヒットを記録している。洋画の興行成績が下降線を辿るなかで、少年とテディベアというファンタジックな組み合わせの「27年後」を不謹慎でお下劣なギャグ満載で描いた、本国でも賛否両論のコメディが、日本で感動を巻き起こしながら大ヒットしているのは、嬉しい驚きである。
ちなみに『テッド』のヒットには、有吉弘行がぬいぐるみのテッドの声を演じた吹き替え版の「成功」が大きい。しかし、ここで言う「成功」とは、有吉の人気で映画がヒットしたということではない。人気タレントが吹き替えを担当すれば観客が映画館に集まるということはまずない。むしろ、そこにコストをかければかけるほど映画が好きな人の心は萎えていく傾向は、強まっていると。しかし『テッド』に有吉を起用したことには、この映画への愛も感じられたし、それでいて映画への批評精神も感じられた。テッドのオリジナル版の声を演じているのは、監督のセス・マクファーレン自身。彼は主にテレビ畑の人で過激なアニメ作品などを多数手掛けていて、最悪番組賞などを栄誉として喜んで受け入れるタイプ。どこか映画に対するスタンスも批評的だ。有吉の声の演技には、そんなセスへの共感が宿っている。多くの人が『テッド』を有吉の吹き替え版と字幕版の両方を観たいとも思っているので、それはDVD&ブルーレイやレンタルのヒットにも繋がるだろう。洋画を日本で公開するというのは、つまり輸入である。なぜそれを輸入したくて、どのようにそれを伝えたいのか、それを考えて公開された映画には観客が集まるのである。
ちなみに先日、アン・リー監督の最新作『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』をどうしてもIMAXで観たくて、日曜の夜9時にシネコンに行ったのだがとても賑わっていて、あの美しくも皮肉な物語を、たくさんの人と楽しめてとても幸せだった。ただそれだけで映画の未来は明るいと思えた。(古河)
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