昨日ゴールデン・グローブ賞が発表されたが、何が素晴らしかったかと言うと、受賞者達のスピーチだった。あと約10日で大統領に就任するドナルド・トランプを意識し、直接的に批判したり、皮肉にしたり、そんな中でアートに何ができるのかなどが、雄弁に語られた。
中でも一番感動的でその瞬間から最大のニュースとなっているのは、功労賞を受賞したメリル・ストリープのスピーチだった。トランプのようにアウトサイダーや、移民を受け入れなかったから、ハリウッドなど存在しないこと、そしていかに彼の言動に傷付けられたのか。またこの世の中でいかにメディアの役割が大事なのか、そして最後は、亡くなった友達キャリー・フィッシャーから授かった助言を思い出したことなどを涙ながらに語り大喝采を受けた。
それを受けてのトランプのツイートは、「メリル・ストリープはハリウッドでも過大評価された女優。彼女は大敗したおべっかつかいのヒラリーの支持者でもあった。それに、私は体の不自由な記者の”真似をした”わけじゃない(そんなことする人がいるわけがないだろう)。彼が16年前のことを私が悪く見える様に変えて書いたから、”卑屈な振る舞いをした”だけだった。ウソのメディアだ、とね!」
また、スティーブン・キングがそれに対してツイート。
https://twitter.com/StephenKing/status/818507527474319360
「トランプのメリル・ストリープへの反応について。子供っぽくて、粗野で、小さいことで怒ってしまう。これぞまさしく、多くのアメリカ人が大統領に対して恐怖を抱えている理由だ。感情的な面において大統領として不適切なのだ」
メリル・ストリープは、スピーチの中でジャーナリストを守る組織(CPJ)を支援して欲しいと訴えのだが、一夜にしてジャーナリスト保護委員会には、普段の140倍の寄付が集まったということだ。
http://time.com/money/4628570/meryl-streep-golden-globes-cpj/
ちなみに、以前トランプが、自分のレストランの悪いレビューを書いたヴァニティ・フェア誌を「死んだも同然で誰も読んでない」とツイートしたことがあったのだが、その翌日にヴァニエィ・フェア誌は1日としては史上最高の新定期購読者を獲得したそうだ。
http://www.huffingtonpost.com/entry/donald-trump-vanity-fair-tweet_us_5854562ce4b0b3ddfd8cb08a
すすすすいません。とんでもなく話しが飛ぶけど、ひとつ。メリル・ストリープは最新作で、実在の史上最高に音痴なオペラ歌手を演じたコメディ『Florence Foster Jenkins』という映画に出演しているのだが、なんとデヴィッド・ボウイが必聴アナログ盤25枚の中に彼女のアルバムを入れていて、スゴいと思った。
http://www.vanityfair.com/culture/2016/04/david-bowie-favorite-albums
以下メリル・ストリープの歴史に残る受賞スピーチ映像。
https://twitter.com/goldenglobes/status/818295979182960640
すでに多くの場所で読めるけど、内容以下要約。
「ありがとう。ハリウッド・フォーリン・プレス(ゴールデン・グローブを決める外国人記者クラブ)。あなた達と、今ここにいる皆さんは、現在アメリカ社会において、最も中傷されている部署に属しています。何しろ、ハリウッドで、外国人で、メディア、なわけですから(→トランプが中傷しているもの)。だけど私達は何者なのでしょうか?そしてそもそもハリウッドとは何なのでしょう?それは、様々な場所からたくさんの人が集まってできた場所というだけです。
私はニュージャージー州で生まれ、育ち、公立学校出身です。ヴィオラ(・デイヴィス)は、サウス・キャロライナの小作人の小屋で生まれ、ロード・アイランド州のセントラル・フォールズで育ちました。サラ・ポールセンは、ブルックリンでシングルマザーに育てられました。サラ・ジェシカ・パーカーは、オハイオ州出身で、兄弟は7、8人います。エイミー・アダムスは、イタリアで生まれ、ナタリー・ポートマンは、エルサレムで生まれました。彼らの出生証明は一体どこにあるのでしょうか?(→トランプは、オバマに出生証明を出せと言い続けた)
美しいルイス・ネッガは、エチオピアで生まれ、アイルランドで育ちました。そして彼女は、今回バージニア州の小さな町に育った女の子を演じノミネートされています。ライアン・ゴスリングは、良い人達がみんなそうであるように、カナダ人です。デーヴ・パテールは、ケニアに生まれ、ロンドンで育ち、今回は、タスマニアで育ったインド人を演じています。
ハリウッドは、アウトサイダーと外国人で一杯です。そして彼らを全員追い出してしまったら、フットボールとマーシャル・アーツ以外に見るものがなくなってしまいます。それらは”アート”と呼べるものではありません。
俳優の唯一の仕事というのは、自分とは違う他の人の体に入ってみて、それがどう感じるのかを私達にも感じさせてくれることです。そして今年、正にそれを感じさせてくれる息を飲むような、情熱的なパフォーマンスを、たくさん、たくさん、見ることができました。
ただし、今年私が驚愕したパフォーマンスがひとつありました。素晴らしかったからではありません。良い部分なんてまるでありませんでした。でも、それは有効で、その役割を果たしたのです。それは聴衆達をしっかりと笑わせたのです。
それと言うのは、国の最も敬意のある地位に着こうとしている人が、特権も、権力も、反撃する能力もある人が、体の不自由な記者の真似をしたことでした。
(その映像)
それを見た時、私の心は張り裂けそうになりました。
頭から離れなくなってしまいました。なぜならそれは映画の中の出来事ではなくて、現実世界での出来事だったからです。
人をバカにするということ。それを社会で権力を持っている人がやった時、それはすべての人達に影響を及ぼします。なぜなら、全ての人に同じことをしても良いという許可を与えているようなものだからです。
人に敬意を表さなければ、敬意が表されることはなくなります。暴力は暴力を煽動します。そして権力者がその地位を使い人をいじめるようになったら、私達はみな負けです。
ここで、メディアについて語っておきたいと思います。私達には、責任を問いつめてくれる、すべての非道な行いを、厳しく非難してくれる、信念のあるメディアが必要です。そのためにアメリカの建国者達は、憲法で、報道とその自由を大事なこととして掲げたのですから。
なので裕福なことで有名なハリウッド・フォーリン・プレスとこの業界の人達へお願いです。ジャーナリスト保護委員会を一緒に支援して欲しいのです。これから前進していくためには、彼らが必要だからです。そして彼らは、真実を守るために私達が必要なのです。
最後にもうひとつだけ。私は、ある時撮影中に文句を言っていました。夕食も食べないで撮影しなくてはいけないとか、撮影時間が長過ぎるとか、そんなことだったと思います。そしたらトミー・リー・ジョーンズがこう言いました。『俳優になれるっていうだけでも、恵まれていると思わないか、メリル?』と。正に、その通りです。私達は、お互いそれがいかに特権であるのかを忘れないようにしなくてはいけません。そして、他人の気持ちに共感できることへの責任を忘れてはいけないのです。
今夜、ここで賞賛しているすべてのハリウッドでの仕事を誇りに思いましょう。そして亡くなった友達、レイラ姫が私にかつてこう言ったように、この『張り裂けた心をアートに』しましょう。どうもありがとうございます。」