トレント・レズナーにTV史上最もかっ飛んだ『ツイン・ピークス The Return』第8話について訊いた!


見ました?『ツイン・ピークス The Return』の第8話。NINが登場した回ですが、NINの後、TVが壊れたんじゃないかと思いませんでした?あの内容の意味不明さに突入するのには、NINの音楽が導入として絶対に必要だったという意味では、完璧な登場の仕方だったと思う。シリーズ全体を通して見てもNINの演奏をきっかけに大きな展開を迎える。各国のメディアも、第8話については「リンチとTVが最もピュアに結合した瞬間だった」とか、「最も頭がぶっ飛ぶあまりに荘厳な瞬間だった」などと書き立てている。
https://www.forbes.com/sites/adamlehrer/2017/07/07/ep-8-of-twin~
https://www.theguardian.com/tv-and-radio/2017/jun/26/twin-peaks~

以下、『ロッキング・オン』最新号でトレント・レズナーにインタビューした際に、その回について訊いてみた(ちなみに以下のやり取りは『ロッキング・オン』最新号には未掲載です)。「俺にとってもキャリアの中でも最も誇りに思う瞬間だった」と興奮して語ってくれた。また、リンチが自分のキャリアにどれだけ影響し、ここに来て共演できた喜びが伝わって来た。

さらに、あんなに物語ががっちりハマっているのに、脚本は全然読ませてもらえないまま作ったというのに驚いた。リンチのビジョンがそれだけ明確だったということだ。それはその他すべてのシーンの演出でも分かる。


●あなたが出演した『ツイン・ピークス』の9回目は、あまりにカッ飛んだ内容で、あなたの曲があそこで絶対に必要だったし、その後TVが壊れたんじゃないかと思うような意味不明の場所に突入するという、アメリカ中で“TV史上最高のエピソード”とまでみんなが感動した瞬間でしたよね。
「あれは8回目」

●あれ、8回目でしたっけ?
「うん、そう。あれは最高だったよね(笑)。

●しかもあなたの音楽があそこにないといけないというものでーー。
「(笑)そうそう」

●あなたが演奏した後にTVが壊れたかと思いました。それで、あの曲は前回のEPに収録されていた曲ですが、デヴィッド・リンチに元々頼まれて書いたものだったのですか?
「そうなんだ。あれは、『ツイン・ピークス』のために書いたんだ」

●だから、“she’s gone”なんですね。
「”She's Gone Away“。うん、まずあのエピソードを見た時は、俺のキャリアにおいても、最も誇りに思える瞬間だった」

●ですよね!
「うん、マジで。デヴィッド・リンチは、長年俺の最高のインスピレーションの源であり、友達でもある。俺は、昔どんなことが待っているのか知らずに、クリーブランドの映画館に『ブルーベルベット』を観に行ったんだ。しかもその当時デヴィッド・リンチがどんな人なのかもよく分かっていなかった。だけど、劇場から出た瞬間に、俺が、変わっていたんだ。それで翌日に、もう1回観たくて、劇場に戻った(笑)。もう頭がぶっ飛んだよ。俺が小さな町の出身だからかもしれないけど、あの映画は、これまでこんなもの観たことがない、と思えるものだった。

それで、そこから彼の作品をさかのぼって『イレイザーヘッド』がどういうものなのかを徹底的に研究したし。彼の作品から学んだことは、映画がどんなものになれるのかということにおいて、単に頭がぶっ飛び、どんな風に感じるのかということんみならず、世界をどのように感じて、どう世界を考えるのか、どうやったらその限界を超えて、ルールを破ることができるのかを教えてくれた。さらに、サウンド・デザインという観点から学んだことも大きかったんだ。それは、マスタークラスのレッスンであり、サウンドによってどうやって人を不快にできるのか学んだんだ。

そして、それをそのまま『ザ・ダウンワード・スパイラル』で起用したわけだ。それでその後、彼に会って、『ロスト・ハイウェイ』でコラボレーションした。それから、彼は、俺達の“Came Back Haunted”のビデオを作ってくれた。まあとにかく、それで彼から今回、『ツイン・ピークス』に出たいか?”と電話がかかってきた時、『はい、出たいです』と即答したんだ(笑)。それで、彼は『いくつかのバンドに、ロードハウスで演奏してもらうことになる』と言ったんだ。だから何か書いてくれってね。だから、曲を書いて彼に渡したら、彼が『曲は好きだけど、こういう曲をイメージしていたわけじゃない』と言ったんだよね」

●えっ、そうだったんですか?
「うん、最初に書いた曲はもっと軽い感じの曲だったんだ。というのも、俺は、よりJulee Cruise的なものをイメージしていて、クロマティックスがやったことの方を考えていたからね。よりクールなね。どんな感じか想像付くよね?」

●ええ。
「だけど、彼が『そうじゃなくて、見ている人達がファッキング不快になるようなものを作って欲しいんだ』って言われたんだ。それで、『もちろん、それならできます』と言ってすぐに作ったのが“She's Gone Away”だった。言われてから、1週間以内で撮影しなくちゃいけなかったんだ。だから、曲を書いてる時間が全然なかったわけだ(笑)。それで、聴いてもらったら彼が、『これだよ!』って言ってくれた(笑)。彼がキャラクターでも使っている大きな特徴的な声で、『これだよ!』って言ったんだよね(笑)。それで撮影に行ったわけだけど、でも、そのエピソードの中で、曲がどのように使われるのかはまったく知らなかったんだ。それは極秘になっていたからね」

●えっ、じゃあ脚本も読まないで曲を書いたんですか?
「誰も何も見せてもらえなかったし、何も聞けなかった」

● ええ、そうなんですか?!
「だからものすごく限られた情報を元にやらなくちゃいけなかったんだよね。それで、それから1ヶ月後くらいに彼から電話がかかってきて『家に来て映像を見て欲しい。自分達のパフォーマンスがこれで良いか確認して欲しい』と言ったんだよね。そこで見せてもらったのも、俺達の演奏が始まったシーンからだったんだ。それで俺達のパフォーマンスの映像を見せてくれてそれが終った瞬間に、クーパーが血だらけになって横になっている最初のフレームだけが見えた。そこで彼が『ストップ!』って言ったんだ」

●(笑)ええ、マジですか?
「(笑)それで、『どう思う?』って訊かれて、『最高です』とは言ったんだけど、でも、どんな物語なのかその時点でもまったく分からなかった。でも結果的には、彼とあの番組で一緒に仕事できて本当に光栄だったよ。それに、とりわけ、今世界を見渡すと、何て狂っているんだ、なんでここまでバカげているんだって思える時にね。オバマ政権時代は、俺は“啓発”と呼んでいるんだけど。俺達は恵まれた国であり、大きな意味では経済的にも成功していて、人々は助け合わなくはいけない、自分達をしっかりと面倒みて、健康保険を持つ。それは俺達国民の責任である。戦争で荒廃した国の難民を引き受けるのは俺達の責任なんだというオバマ時代には約束があった。

しかし、それは現在、すべて投げ出されてしまい、他の奴らはみんなファックだ!俺達には関係ないという態度を取る政府になってしまった。俺達が一番大事なんだ、という本当にアホなメッセージを投げかけている。そして、人の恐怖感を上手く利用している。つまり、今毎日、新たな後退を目撃している日々の中で、女性から体の権利を剥奪してやれ、トランスジェンダーの人達、または俺達と“違う”と思う人達の権利は全部剥奪してやれ、という本当のでたらめが日々まかり通るリアリティの世界で生きている中で、何か素晴らしいもので、例えば『ムーンライト』のような作品を観て、ぶっ飛ぶ感じがするというのは、素晴らしいことだと思うんだ。本当に感動的で、親密な作品だと思ったからね。そんな映画を観ることになるとは思ってもみなかったし。

あの映画を観た瞬間に、ある意味俺は人間らしさを再び感じることができたんだ。こんな風に何かを感じることができるんだ、って思えた。それは『ツイン・ピークス』にも言えることだと思った。『ツイン・ピークス』というもの自体が一般的に言って、存在するってことだけでも、ファッキング奇妙で思いきり挑戦的なことだ。それをみんなが話題にしているということがね。そういうものが俺達はもっと必要なんだと思う。俺達には偉大で、最高ものを生み出せるんだから(笑)。だから、見下して、後退していくのは止めるべきなんだ、ったくファック!」

ライブ映像はこちら。
Nine Inch Nails-“She's Gone Away”

最新の『ロッキング・オン』では、EP『アッド・ヴァイオレンス』について訊いています。3枚目のEPを今年中に発表したいと言っていました。
https://rockinon.com/blog/yamazaki/166238

ライブ写真はPanoramaフェス時のもの。最新号の「コレポン通信」でそのむちゃくちゃカッコ良かったライブレポートも書いています。
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事