エリック・クラプトン「自分のドキュメンタリーを観るのは心が痛い」と語る。”Eric Clapton: Life in 12 Bars”が世界初上映。[トロント映画祭2]

エリック・クラプトン「自分のドキュメンタリーを観るのは心が痛い」と語る。”Eric Clapton: Life in 12 Bars”が世界初上映。[トロント映画祭2] - GP Images WireImage/TIFFGP Images WireImage/TIFF

現在開催中のトロント映画祭で、エリック・クラプトンのドキュメンタリー映画“Eric Clpaton: Life in 12 Bars”のワールド・プレミア上映が行われている。

監督したのは、「長年の友人」であるLili Fini Zanuck。上映会にも現れたクラプトンは、「数日前にステージに立って演奏したけど、その時と今日は随分雰囲気が違うなあ」と照れながら言っていた。しかし、「今日ここに来られたこと、そしてこうしてまだ生きていることに感謝したい」と語り、映画が上映された。

エリック・クラプトン「自分のドキュメンタリーを観るのは心が痛い」と語る。”Eric Clapton: Life in 12 Bars”が世界初上映。[トロント映画祭2] - TIFFTIFF

内容は、トロント映画祭で同様に世界初公開されたレディ・ガガのドキュメンタリー“Gaga: Five foot Two”とは違い、彼の人生を生まれた頃から現在に至るまでを追ったもの。BBキングも、ジミ・ヘンドリックスとの会話音声や、若かりし頃のローリング・ストーンズも、ザ・ビートルズも、ボブ・ディランも、ロジャー・ウォーターズなども豪華に登場する。

ただ、上映が終った後のQ+Aで、クラプトンが開口一番に言っていたのは、「自分をあまりに曝け出しているから、観るのは心が痛かった」ということ。実際、アルコール、ドラッグ中毒の時期が長いし、息子さんが亡くなるなど辛いシーンが続く。ロック・スターのドキュメンタリーにありがちな、セックス、ドラッグ、ロックンロールなお祭り騒ぎ、というような場面はなく、むしろ、シリアスな人間物語、というものになっている。「皆さんも、よく最後まで観れましたね?あまりに悲痛なできごとの連続なのに。だけど、それでも僕は死なずにここにいるし、今は幸せでハッピーだから。家族が持てたし、自分が人と生活ができる人間なんだと分かったから良かったと思っている」

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クラプトンが、この映画の中で特に気に入っているのは、亡くなった息子さんの元気な時の映像を紹介できたこと、だそう。「息子に敬意を表することができたこと。そして映画の最後で幸せな家族が持てたところだ」と語っていた。さらに、「いまだに、人が自分のドキュメンタリーを観て楽しんでくれるというのが、不思議で仕方ないのだが」とも付け足していた。

実際は当然非常に興味深い内容になっている。

とりわけ、冒頭から、すでに広く知られていることではあるが、子供の頃、自分がお母さんだと思っていた人が実は祖母で、姉だと思っていた人が本当は母だったことを知らされるところなどは本当に観ていて辛い。「自分の人生はすべてウソだった」とまで思ったと紹介される。しかも、母親にある時「自分の母になってくれるのか?」と訊いたら、「NO」と拒絶される場面なども心が張り裂ける。

そして、9歳の時に、ラジオでマディ・ウォーターズを聴いて、「自分の心の苦痛が初めてすべて癒されたように思えた」と語っている。監督も上映後に言っていたのだけど、それが、この作品の大きなテーマにもなっている。また、ブルースミュージシャン達がギターだけを持って世界と戦っているように見えたのが、自分もギタリストになりたかった理由でもあると紹介されていた。

映画の中で、「僕は自分の人生が嫌いだ」という場面があって、さらに心が痛いし、また、記者会見では、70年代に、1週間で$16,000分ものコカインを買っていたことも明かしていた。ジョージ・ハリスンの奥さんだったパティ・ボイドも声で出演していて、当時の事情もしっかりと描かれている。また監督が言っていたけど、クラプトンは自分のものを保管したり、記録しておくことが嫌いで、資料となるようなものはあまり残っていなかったのだけど、パティがカメラマンだったので、写真がたくさんあったのが映画ではすごく役に立ったということ。

エリック・クラプトン「自分のドキュメンタリーを観るのは心が痛い」と語る。”Eric Clapton: Life in 12 Bars”が世界初上映。[トロント映画祭2] - TIFFTIFF

息子さんがNYのビルのバルコニーから落ちて亡くなるという悲劇はやはり映画の中でも最も辛い場面だ。とりわけ、クラプトンは、子供が生まれたのを見て、自分は大人にならなくては、と決意したところだったから。そして、その時も、「心の中は最悪なのに、ギターを弾いている時だけは、痛みがどこかへ消えた」と語っていた。

この映画には、もちろんクラプトンの音源も使われているが、全体のサントラは、グスターボ・サンタオラヤが手がけている。クラプトンはそれもこの作品で最も気に入っている箇所だと言っていた。ただ興味深かったのは、彼がサンタオヤラに音楽をお願いしたのは、「アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『BIUTIFUL ビューティフル』が一番好きな映画のひとつで、そのサントラも彼が手がけているから」。『BIUTIFUL ビューティフル』こそ、悲劇に次ぐ悲劇の連続で、観るのが最も辛いような映画だ。頑張って観ると最後にかすかな希望を感じるような作品なのだ。あの映画ほどではないにしろ、どこかクラプトンの人生やドキュメンタリーに重なる部分がある。もしかしたら観ていて傷が癒されたのかもしれない。

このドキュメンタリーは、アメリカではSHOWTIMEで放送される。日本でも恐らく観られることになるはずなので、何か発表されたら追って紹介する。

予告編はこちら。
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