ブルース・スプリングスティーンが「トランプは絶対に負ける」と語る。遂に字幕版が配信された『ウエスタン・スターズ』についてのインタビューも再掲

ブルース・スプリングスティーンが「トランプは絶対に負ける」と語る。遂に字幕版が配信された『ウエスタン・スターズ』についてのインタビューも再掲 - (C)TIFF(C)TIFF

最後に頼れるのはやはりブルース・スプリングスティーンか。大統領選挙直前の10月23日に最新作『Letter To You』が発売となるスプリングスティーン。


イギリスのチャンネル4のインタビューに答えている。

https://www.youtube.com/watch?v=1_UoZ8wP6zg&feature=youtu.be

彼自身の鬱の問題も含め様々なテーマについて触れているが、その中で、大統領選挙についても語り、「トランプは絶対負ける」と発言している。

「今の問題は、ドナルド・トランプが、選挙の不正を訴えていることだ。それは、彼は自分が負けると思っているからだ。そしてもちろん、彼は絶対負ける」


●自信を持って言えますか?

「もちろんだよ、もちろん。彼は絶対に負けるよ。彼は自分が負けると分かってるんだ。それで彼はまぎれもなく毒性のあるナルシストだから(笑)、彼が去る時に、民主主義のシステム全体までも崩壊させようとしているんだ。彼が過去を振り返って反省するようなことでもあれば……でも彼は過去を振り返ったりしない人なわけで。まるで品位もないし、責任感もない。この数週間彼が使っている言葉というのは、民主主義システム全体を攻撃するようなものだ」


●それは危険でしょうか?

「うん、危険だよ。すごく危険だよ。彼の言葉に耳を傾ける人はたくさんいるからね。だから静かにおとなしくおやすみなさい、と消えていくとは思えないんだ。可能な限りめちゃくちゃにすると思う。それが何を意味するのかまだ分からない。もうすぐに分かることだけどね」


●今のアメリカの状況を見て、またトランプが使う言葉を聞いて、あなたはまだあなたの有名な曲“Born in The U.S.A.”のように、アメリカに生まれたことを誇りに思えますか?

「アメリカにはまだあまりにたくさんの素晴らしいところがある。俺はこの国を愛している。それはいつだってそうだった。だけど俺にはそれに対する批判的でありながらも、クリエイティブな声というのがあって、その声を俺は音楽の中で追求してきたんだ。それは“Born in The U.S.A.”という曲においてもそうだ。あの曲は、ヴァースにおいては批判的な声があり、だけどコーラスでは、国への誇りがある。それが常に俺の原点なんだ。俺はアメリカで育ち、俺の音楽というのは完全にアメリカだ。だから俺は間違いなく俺の住んでいる場所に批判はあるけれども、だけど、常に誇りも持って来た場所なんだ」




映画『ウエスタン・スターズ』のDVDの日本発売がようやく決定した。現在iTunesでも字幕版のストリーミングが開始している

これは、彼がこれまで追求してきた自分の人生の哲学とも言うべきものが総括された超貴重かつ感動的な内容なので必見だ。この作品は、去年のトロント映画祭で世界初上映された。トロントで行なわれたブルース・スプリングスティーンの記者会見に2回行ったのでその時の発言を以下にまとめる。『ロッキング・オン』2019年11月号に掲載したものを再編集した。

https://www.youtube.com/watch?v=nGqjav-KbDU&feature=youtu.be



●映画化した経緯

「自然に起きたことだった。年を取ることとも関係しているのかもしれない。自伝を書きそれが舞台につながった。舞台とこの映画には、俺が恐らく子供の頃から生涯かけて探求してきた哲学が描かれていると思う。映画の最初に、アメリカにはふたつの特徴があると語っている。ひとつは、孤独でいたいと思うこと。そしてもうひとつは、結束やコミュニティを切望すること。それが俺の人生をかけての旅路でもあった。自由と孤独な自分から、どのようにもう一方に辿り着けばいいのか。そして、いかにその両方と和解すればいいのかを考えてきた。恐らく自伝(『ボーン・トゥ・ラン』)と舞台(『Springsteen on Broadway』)とこの映画という3つの作品は、今の時点までの俺を総括したものだ思う。そして俺が観客に残したいと思うものでもある。これは俺が若い時からずっとしてきた会話であり、ファンにここまで長い間付いてきてくれて本当にありがとうと言いたいんだ」


https://www.youtube.com/watch?v=M1xDzgob1JI&feature=youtu.be

●映画化に際しての目標

「このアルバム特有の空気感があると思ったから、その通りに形にしたかった。内容はアメリカ西部を想起させるものであり、曲も70年代後半の南カリフォルニア的なサウンドだった。だからその脈に従って作品にしたかった。さらに映画にすることで、伝えたかった感情の流れが描けた。アルバムよりも映画でのほうが明確に表現できたと思う。映画では曲と曲の間に言葉を加えたから、曲が何についてなのかを語れたからね。おかげで、アルバムが何についてなのかより明確に説明できたと思う」


●どのように映画のフォーマットにはめていったのですか?

「俺の納屋の2階でやったんだ(笑)。納屋でやれば自分が感じたように親密に映画を作れると思ったからね。アルバムの大半は、非常に親密な曲だし。撮影については、当初今回ツアーをしないから、どのようにこのレコードを通じて、ファンとコミュニケーションを深められるのかを考えていた。それでアルバムを最初から最後までライブ・レコーディングしようということになったんだ。その後、音楽ドキュメンタリーではよくある、関係者にインタビューするというのをやった。そしたらみんな俺と仕事するのがいかに素晴らしくて光栄なのかを語ってくれた(笑)。でもそれがどうもしっくりとこなかったんだ。それである晩TVの前で、数時間でこの映画の脚本を書いた。それぞれの曲にはイントロが必要だと思ったからね。それでトム(・ジムニー監督)と一緒にそれに合う映像を撮影した。そしたら突然映画になったから大喜びしたんだ。観客にもこの音楽がよく伝わると思えたしね。自伝を書き、舞台をやり、この映画があり、作品の三部作が完結したというような気がした。すごく嬉しかったよ」


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●新しいミュージシャンとのコラボはどうだったか?

「それに関して大きかったのは、すべては4日間で行なわれたということ。今回初めて音楽ディレクターにお願いして、彼がバンドを全部揃え、アルバム全曲のリハーサルも行なった。だから俺が初めてスタジオに入った時には、彼らの方が俺より何もかも知っていた。それでリハーサルを1晩やり、それから納屋でもリハーサルをして、その次の日に撮影を開始した。撮影は数日で終わった。それはこれまでとはすごく違う経験だった。誰かがオーケストラを全部用意してくれていて、俺は自分のアレンジなどをやればよかったわけだからね。準備からレコーディングまで4日間で行なわれたんだ」


●曲と曲の間に流れるスコアについては?

「曲と曲の間のスコアを作るのは、とりわけ楽しかった。自分の中に、使い道の定かではない音楽が常にあるものだからね。今回の曲には特有の空気感があってメロディを引き出しやすかった。だから、スコアを書くのはすごく楽しかった。音詩のようなものになったと思う。曲と曲の間に書いた音楽も会話も、映画全体を通して、詩的なフィーリングを加えるようなものにしかった。それが目標だった」


●曲の間の映像について

「曲の間の映像は、ジョシュア・トゥリー近辺で撮影した。この映画の中で最初に俺が語るのは、アメリカの個性には2面あるということ。ひとつは、孤独であり、そしてもうひとつはコミュニティを切望すること。だけど多くの人たちは、人生においてその2つと折り合いを付けられなくて葛藤する。この映画の終わりに流れるのは、俺たちの新婚旅行の映像だ(笑)。ヨセミテに行って小さな山小屋でパティ(・シャルファ)と一緒にいるところだ。彼女はその時2人目の子供の妊娠数ヶ月で、そこに車で行ったんだ。彼女が唯一言ったのは、『妊娠しているから、暑いところだけには行きたくない』だった(笑)。ヨセミテは70度(21℃)だったけど、カリフォルニアの砂漠を横切って行かなくてはいけなくて、そこは100度(37℃)だった(笑)。新婚旅行の映像は、これまで忘れていたんだけどトムが見つけたんだ。その映像が、そこに辿り着くまでの本当に本当に遠くから始まった物語を完結してくれた(笑)。この映画は、そこまでの旅路について、そして(仕事ではない)本当の意味での自分の人生を持てるようになるまでの道のりを描いたものだ。人生を持てるようになり、人生を謳歌できるようになる。それがもたらす苦痛も幸せも一緒に抱えながらね。そこに辿り着くまでにどんな苦痛を味わったのかも含めてね。そこからは深い満足感、幸せを得ることになる。この映画を観ることで、観客にも自分にもそれができたと実感してもらえたら嬉しい。誰もが達成するべきことだと思うからね。それで初めてこの映画が誰にとっても普遍的なものになると思う。それを手にするために、そこに辿り着くために、どのような代償を払うのか、どれだけの苦労が必要なのかという洞察になると思うんだ」


●アメリカ西部の影響力について

「俺は50年代育ちだから、西部劇を観てきた。それに自分の音楽を地元について以上のものにしたかったから、国の色々な土地からのインスピレーションを得て曲を書いた。『闇に吠える街』でもユタ州や南西部を舞台に書いたし、ヘンリー・フォンダやゲイリー・クーパーなどを観て育ったから、西部劇に象徴的な男性像をインスピレーションにして書いたりもした。自然に骨にしみ込んでいたと思う。今作の良かったところは、短編映画的なものを南西部で撮影できたこと。だから、その両方の最高の部分を描くことができた。俺にとって西部の風景は、いまでも神話的で、自分の語りたいことの舞台にしやすい。しかも、アメリカ人なら西部に対するイメージは誰もが持っているから、広大な場所での孤独やいかに人間と基本的な結び付きを持つ事が難しい場所なのかということがすぐに分かってもらえる。コミュニティや愛と葛藤しなくてはいけないことも。西部を物語の舞台にするとそういうものがすべてある」


●ジョン・フォードの映画などは?

「最初に観たジョン・フォードの映画は『怒りの葡萄』だったと思う。あれは西部劇とは言えないけど、今だに、『捜索者』には膨大な影響を受けているよ。映画からは、自分の語りたいことをどのように形にすればいいのかを学んでいる。とりわけ年を取るキャラクターなどを見て、どのように自分の物語を語っていけばいいのかを学んだ。常に素晴らしいお手本だよ」


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●“ストーンズ”と“ムーンライト・モーテル”では、アルバムと違って、パティが参加しています

「パフォーマンスするとなった時にすぐにパティに一緒に歌ってほしいとお願いした。俺たちはもう随分と長く一緒にいるからマイクを囲んで一緒に歌うと、そこに様々な人生が浮き彫りになる(笑)。彼女以上に俺を知っている人はいないし、彼女の目を見るのはすごく怖い(笑)。それはもちろんすごく素敵なことでもあり、これだけ長く一緒に過ごしたからこその歌い方ができると思うから。ありがとうパティ。愛しているよ。この映画はそういう意味でロマンチックであり、パティへのラブ・レターとも言えると思う。彼女がいなかったら、僕はいないから」


●愛する人を押しやること、それは罪であると語っていることについて

「30代初めの頃、ある朝目が覚めて、俺のすべてはどこにあるんだ、と考えるようになった。仕事するのは好きだし、人生は最高だ。でも、そこで壁にぶつかった。自分にはその他に行く場所がない。どこか違う場所に行かなくてはいけないと思った。それで、その時違う場所を追求していなかったらこの映画はなかった。愛する人達との人生と、仕事ばかりの人生のそれぞれを生き、そしてクリエイティブであり続けたいと思っていなかったと思う。そういう意識の飛躍がなかったら、次の場所に進めないと思う。ただ結局は最後に愛があるという古くからある物語に辿り着く。愛こそが俺たちに唯一与えられたもので、愛が最後にあるから日々進むことができる。つまり、そこにどうやって辿り着ければいいのか。この映画は、その大変な道のりを描いたものだ」


●死について

「誕生日ももうすぐくる(笑)。たいした事じゃないよ(笑)。俺は、良い友も親友も亡くしたから、死はもう人生の一部だ。それに最善を尽くすのみだと思っている。死は人生の非常に興味深い部分だ。俺には、いまだ新しいと思えることやエキサイティングなことがあり、日々前進している。でもくじけることも、失敗することもある。そして今はもうここにいない人、またはまだいる人達と、自分の勝利も敗北も分かち合って生きていくものだ。最終的には、その勝利も敗北も抱えて生きていかなくてはいけないし、成長していかなくてはいけない。俺の母は今具合が悪いし、バンド・メンバーにも亡くなった人達がいる。でもそれも人生だ。それが当然作品にも表れていると思うし、そうあるべきだと思う。それを抱えて進んでいくまでなんだ」


●“Rhinestone Cowboy”が最後に演奏されるのは?

「グレン・キャンベルからは大きな影響を受けたからね。それで、最後に何かが必要だということになって、これで立ち去るのにぴったりな曲だと思ったんだ(笑)」


ちなみにトロント映画祭では、なんと幸運なことにブルースに直接挨拶できるという素敵な場が儲けられ、1問くらい訊きたいことが訊けるという機会があったのだが、死について語っていることもあり、自分がこれから作品を作れなくなることを心配するか?と訊いたら、笑いながら

「今のところはまったくない(笑)」

と答えてくれた。

実際これから新作も出るわけだし、世界初上映後のQ&Aにおいてもその尽きないエネルギーについて訊かれ、「次はレスリングでも始めるつもりだ(笑)」と答えて会場を笑わせていた。憂鬱なことが続くアメリカだが、彼みたいな人がいてくれることが実際大きな心の支えなので、健康で良い作品を作り続けて欲しいと心から思う。

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