アメリカでLA図書館からライブ映像が公開され、一瞬で誰もがパンク・バンド、ザ・リンダ・リンダズの虜になってしまった。10歳、13歳、14歳、16歳の女子で構成されてる超若いバンドだが、彼女たちがカッコ良すぎて、トム・モレロみたいな大御所からワシントン・ポストみたいなメジャーな新聞まで、みんな大絶賛している。
LAの図書館から中継された彼女たちのライブ映像はこれ。
映像の中で10歳のドラマー・Milaがこう語っている。
「ロックダウンが開始するちょっと前に、クラスの男子が私のところに来て、『お父さんに中国人には近づくなって言われた』と言った。それで『私は中国人だけど』と言ったら、その子は私から遠ざかった。そんな経験をしたことを元に、Eloise(Milaのいとこ)とこの曲を書いた」。
そしてEloiseがこう言っている。
「だからこの曲は、そいつと世界中の人種差別で、女性差別の男子に向けて書いた」と。“Racist, Sexist Boy”という曲を演奏している。これが王道パンクでめちゃくちゃカッコいい。
歌詞も最高。
「人種差別、女性差別 男子
私たちは、あなたが破壊するものを再構築する」とEloiseが叫ぶ。
ドラムのMilaが歌っているのも良くて、
「あなたは意地悪を言うし
心は狭くて
自分が聴きたくないものからは
目を背ける」
「カッコつけで
バカで
クズで
ムカつく」
正に!この単刀直入さ、無駄のなさ、怒りをストレートに表現していて、曲が良い。最高!
しかも、バンド名がザ・リンダ・リンダズってところでザ・ブルーハーツと関係ないわけないだろうとすぐに予想したが、バンドのInstagramでザ・ブルーハーツの“リンダ リンダ”をカバーし、そこで「バンド名はここから取った」と言っている。これが演奏。
しかし、NPRの記事によるとわざわざ2005年に公開された日本の映画『リンダ リンダ リンダ』から名前を取ったと書いてあるので、思うに、映画を観て、その中でブルーハーツの曲を知った、ということだと思う。
https://www.npr.org/2021/05/21/999058293/whats-more-punk-than-teens-screaming-in-a-public-library
どちらにしても、ブルーハーツのあの名曲が、巡り巡ってLAの10代の女の子たちのインスピレーションとなったと思うとジーンとしてしまう(涙)。しかもこのライブで、色々な人の名前を紙に書いて椅子などに置いているけど、彼らは、警察に不当に殺されてしまった主に10代のキッズの名前なのだ。常に主張があって、やってることも正しい。
彼女たちには早くからファンが多くて、Milaがビキニ・キルのTシャツを着てるけど、キャスリーン・ハンナがThe Linda Lindasのファンで、自分たちのオリジナルより彼女たちのカバーの方がいいと、2019年にビキニ・キルの復活ライブの時に前座に起用した。
またデビュー前からカレン・Oと共演していたり、ベスト・コーストの2人をおじさんとお母さんと呼んでいて、バンドにかなり関わっているのも分かる。
また、彼女たちのことをNetflixの『モキシー 〜私たちのムーブメント〜』で観た、という人も多いかもしれない。ビキニ・キルのライブに監督のエイミー・ポーラーが来ていたことがきっかけで、彼女たちが起用された。
映画の中で演奏したビキニ・キルとザ・マフスの曲を庭で演奏し投稿。それをパラモアのヘイリー・ウィリアムスが「大ファン」と言ってツイートしている。
クールなパンク・ロックの女性アーティストたちから、即応援されている存在なのだ。
バンド・メンバーのお父さんがスタジオを持っていると言っているので、もともと音楽は身近にあったんだと思う。図書館の映像全編はこちら。
ちなみに彼女たちが出たのは、LAの公立図書館が毎週やっているティーンエイジャーのシリーズ。今月は、とりわけAAPIヘリテージ月間(アジア系アメリカ人及び太平洋諸島系アメリカ人の歴史、文化、功績によるアメリカへの貢献と影響を認識する月間)なので彼女たちが招待された。
彼女たちのバンドキャンプによると、メンバーの半分がアジア人で、半分がラテンアメリカ系。2人が姉妹(MilaとLucia)で、1人はいとこと(Eloise)、もう1人は親友(Bela)で構成されている。Instagramによると全員が全部の楽器が弾けるようで、まだ誰が何を弾くのか固定してないみたいだ。
さらに、同じくNetflixの番組『The Claudia Kishi Club』にも依頼されて曲を書いてる。これもまた良い曲。
“Claudia Kishi”は、人がなんと思おうと、自分の好きな格好をする、という内容だ。
選挙を呼びかける“VOTE”という曲も良いし、自分の飼ってる猫の歌とか、リモート授業になってしまい学校の友達に会えなくて寂しいと歌う歌なども、等身大で良い曲ばかり。
https://thelindalindas.bandcamp.com/album/the-linda-lindas
『モキシー』の中では、「どうってことない白人男子に仕切られるのはもうたくさん」と言って彼女たちが紹介されるけど、例えば、昨今、ビリー・アイリッシュのようなスーパースターも、最新の“Your Power”で、「力があるからって人を傷つけないで」と歌っている、女性差別、男性による女性の虐待をテーマにした曲を発表した。また、テイラー・スウィフトも『folklore』の中の“mad woman”と“my tears ricochet”で、自分の原盤権を売り買いした元レーベルの社長と、スクーター・ブラウンへの怒りを歌っている。
現在アメリカでは、最高裁の判決によっては、女性から中絶の権利が奪われてしまうかもしれないという危機に直面している。数年前からの傾向だけど、アメリカを後退させている古くから特権を握ってきた「白人男子」への怒りが、超メインストリームにおいても、10代のパンク・バンドでも、女性アーティスト達を駆り立てているのだと思う。
女性のみならず白人男性以外のアーティスト達の反発が、今のアメリカの音楽シーンを前進させている。
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