デンゼル・ワシントン&R・ゼメキスの『フライト』が素晴らしかった&今年のアメリカ映画が描くもの

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50周年を記念するニューヨーク映画祭が今日で終わります。何もレポートしていなくてすいません。映画は大量に観ていて、取材もしているのですが、レポートが追いついていない状況です。

それで一番最初にご紹介するのが、クロージングの映画になってしまいましたが、ロバート・ゼメキス監督、デンゼル・ワシントン主演の『フライト』です。素晴らしかったです。ここ数年3D/CGアニメに力を入れていたゼメキス監督の久しぶりの実写にして非常に見応えのある作品が完成したと思います。

主人公のデンゼル・ワシントンは、飛行機のパイロットなのですが、アル中であり、ドラッグ中毒でもあります。妻と息子にはとっくに愛想を付かされていて、絶縁状態……で、ここから先どこまで書けばいいのか悩みむところですが、とりあえず今日は書かないことにします。下の予告編を観ると少し分かりますが。

しかし、物語のテーマのひとつは、主人公が非常に困難な状況に立たされ、葛藤を何度も繰り返し、自信を喪失し、モラルも喪失し、そこから何をきっかけに立ち直り、そしてどんな解決策を見付けていくのか?ということです。デンゼル演じる主人公は、決して観客がすぐに共感したいタイプの人間ではないのに、彼の演技があまりに人間の本質をリアルに映し出すので、とにかくスクリーンから目が離せないという作品です。

さらに、物語についてふと思ったのは、今年のアメリカ映画の傾向のひとつとも言えるもの。

これは私の勝手な解釈ですが、去年は、例えばこのブログにも書いたことがありますが、父親がすでに亡くなっていたり(『ヒューゴの不思議な冒険』、『ものすごくうるさくて、あり得ないほど近い』)、アル中(『戦火の馬』)で、父親は不在である映画が何本かありました。子供達に鍵を渡して、彼らが冒険するのです。父親には解決策は見付けられないまま、せめて子供達に未来を託すという内容の作品がいくつかあったと思うのです。

しかし今年は、父親がスクリーンに戻り、困難な状況に立たされ、葛藤を繰り返すのだけど、そこからなんとか、解決策を見付けていくのです。さらに大事なのは、例えば『フライト』における解決策が、社会を先に一歩前に進めてくれるようなものであるということ。

例えば『フライト』の他には、『アルゴ』も子供と離れて暮らす父親が、ひとり困難な状況に立たされ、見事な解決策を見つけ出し、そして父権も回復する話だと言うことができると思います。しかも、彼らの見付ける解決策は、武力行使などではなくて、ハリウッドの考えだした知恵であり、しかも誰も死ぬことのない平和な解決策なのです。

残念ながらまだ観てないですが、スティーブン・スピルバーグの『リンカーン』にもそういう側面がありそうですし、また、『ザ・マスター』も父親ではないけど、そういう側面があります。さらにデヴィッド・O・ラッセルの『シルバー・ライニングス・プレイブック』の主人公も不安定な精神状態から立ち直っていく話です。

それで、少々強引かもですが、これらの作品には、ダメージを受け、自信を喪失し、葛藤するアメリカの回復とモラルの奪回や理想が映し出されているのでは、と思うのです。

偶然ですが、それってここ数年のエミネム自身の人生にも似ていますよね……。

今年は、本当に素晴らしい映画が多いです。非常に複雑な人間性を見事なエンターテイメント作で描いている作品が多いのです。『フライト』で、デンゼル・ワシントンが、今年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされる確立は大だと思います。ただし、今年は主演男優で素晴らしい人が多すぎるので、一体どうなるでしょうか…………。現時点で噂されているのは、ダニエル・デイ=ルイス(『リンカーン』)、ホワキン・フェニックス(『ザ・マスター』)、ヒュー・ジャックマン(『レ・ミゼラブル』)、デンゼル・ワシントン(『フライト』)、アンソニー・ホプキンス(『ヒッチコック』)、ジョン・ホークス(『ザ・セッションズ』)という感じです。まだ誰も観てないタランティーノの新作『ジャンゴ繋がれざる者』が突然すべてをひっくり返す可能性も大です。

『フライト』のアメリカ公開は、11月2日。日本公開予定は見付けられませんでした……。予告編はこちら。
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