ブルース・スプリングスティーン、驚愕の7枚組『ザ・リバー・ボックス』の全貌とは
2016.01.27 20:00
ブルース・スプリングスティーンの代表作のひとつにしてロックの歴史に名を残す1980年の名盤『ザ・リバー』の未発表音源や未収録音源を集約した『ザ・リバー・ボックス~THE TIES THAT BIND: THE RIVER COLLECTION』があまりにもすごいことになっている。このボックス・セットの未発表やアウトテイク音源については鳴り物入りではあったし、70年代末から80年代にかけてブルースが膨大な量の未発表音源を生み出していたこともすでに事実としてよく知られていることではある。しかし、ここまでクォリティーの高い楽曲群を普通眠らせておくかいとあらためて呆れてしまうのが今回のボックス・セットの内容となっているのだ。
しかも、これはなにも初めてのことではない。同じアルバムのアウトで以前にもこういうことがあったわけで、その驚愕の事件とは1998年にリリースされた未発表音源ボックス『トラックス』だったのだ。このボックスにはデビュー前から98年までの未発表とレア音源が収録されることになって、当然、『ザ・リバー』の未発表曲も収録されていたが、この時だけでも13曲の未発表曲と一部未収録曲が揃っていて、どれもなんでこれが世に送り出されていないのと呆気にとられてしまう内容だったのだ。それなのに、今回の『ザ・リバー・ボックス』ではこの『トラックス』に収録されていた11曲も収録しつつ、これまで明かされていなかった11曲が新たに収録されていて、この完全未発表11曲の内容が新作アルバムとしてリリースされていてもまったく問題ないどころか、なぜこれが出ていないのか、そっちの方が問題だと言いたくなるような内容になっているのだ。
同じアルバムの音源で1度ならず2度もこんな発見をさせられて驚く一方で、ブルースはどう考えているのかというと、たとえば、『トラックス』にも収録された、あまりにもドラマティックにして疾走するようなナンバー、"ルーレット"について『ザ・リバー』本編に収録しなかったことを「明らかにヘマった」と今回のボックス・セットに収録されたインタヴュー映像で明かしている。しかし、その一方で彼は、『ザ・リバー』については創作と制作の両面でいまだかつてなく試行錯誤が繰り広げられていて、どの曲が実際に収録され、どの曲がこぼれるかは本当にわからなかったのだと語っていて、こういうことはもうどうしようもないんだよと苦笑しながら説明する姿がとてもほほえましい。そんな会話の中で「70曲くらい書いてるんだからさ」とひょろっと語るところがなんだかもうとんでもない人だなあと感服してしまう。
また、インタヴューではタイトル曲"ザ・リバー"のほか"独立の日"などのバラードをどう聴かせるかということに特に腐心したと語っているのも興味深く、曲選考の謎とアルバムの意図が初めて解き明かされたようにも思う。しかし、である。だからといって、今回収録された『ザ・リバー:アウトテイクス』の前半11曲のような内容の楽曲群が36年もの間、日の目を見ないということがありえていいのだろうか。桁外れの才能とドライヴに突き動かされているアーティストというのは、やることも桁外れに予想がつかないものなのだとあらためて感銘を受けた。(高見展)