【再検証】「マツコの知らないドリカムの世界」で中村正人が自ら解き明かした本当のドリカムとは?

【再検証】「マツコの知らないドリカムの世界」で中村正人が自ら解き明かした本当のドリカムとは?

今月18日の『マツコの知らない世界SP』(TBS系)で放送された、「マツコの知らないドリカムの世界」は、とても興味深い内容だった。DREAMS COME TRUEのリーダー、中村正人(B)が出演し、吉田美和という圧倒的な才能と、それを支え続ける自身の役割について、これまでになく赤裸々に語ったからだ。もともとドリカムに対して苦手意識を持っていたというマツコ・デラックス。しかし「ドリカムに対して悪意はない」と言う。ではこの番組で、中村自らが掲げたテーマでもある「ドリカムアレルギー」とはどういうことなのかといえば、その歌詞世界のポジティブさが、「幸福の象徴のよう」だとマツコが冒頭で語った言葉に集約されると思う。DREAMS COME TRUEというバンド名からして、ポジティブの象徴であり、ファンも前向きな幸福世界に生きている人たちなのだろう、だから自分のような斜に構えた人間が聴くべき音楽ではないのだと。ここに中村は異論を唱えた。私もここには大いに異論を唱えたいと思った。ドリカムの音楽は、ただポジティブなだけでも、幸福な日常を送る人たちだけが共感するような音楽でもないからだ。

実際、中村の発言では、その「ポジティブなイメージ」を覆すものが多々あり、例えば「吉田美和はただポジティブな人間ではなくダークな面を持つ」ことや、「彼女は、自分はそういうタイプの人間ではないからと、当初からDREAMS COME TRUEというバンド名には否定的だった」ことなど、ドリカムに対して無邪気に前向きなイメージで捉えていた人にとっては意外な言葉が続いたはず。「夢は叶うという名のバンドは決して幸福ではない」とも、中村は言い切った。逆説的だが、実はドリカムが長く愛されている真の理由はここにある。うまくいかないことや、叶うはずがないこと、そのほとんどの報われなさを知っていながら、それでも愛や希望を歌う、それが吉田美和というシンガーだ。痛みや悲しみにあふれた現実の、その先にあるささやかな光──彼女自身が、その光を求めてやまないのだと思う。そのリアルな切実さにこそリスナーは惹きつけられる。だからおそらく多くのファンはドリカムのことを「幸福の象徴」とはまったく受け取っていないはずだ。

しっかりと楽曲に向き合ってみれば、そこで描かれる普遍的な心象風景には、その根底に「まだ叶わぬこと」への儚くも強い願いが、多くの曲で見え隠れしているのがよくわかる。決して満たされた思いだけで鳴らされる音楽ではない。歌詞に綴られた言葉そのままではなく、その裏にあるいくつもの複雑な出来事、感情──それを表現するのが吉田美和の歌声だ。そして、その思いをひとつの物語のように描くことで、リスナーの日常にも寄り添うようなポップミュージックへと昇華している。だから、ドリカムの楽曲にじっくり対峙したマツコが最終的にその歌詞世界について「寓話のよう」と評したのには膝を打った。

この稀代のシンガーの「天才」を、誰よりも理解しているのが中村であり、その「天才」を「ビジネスとして成立させるため」に、自分は存在しているのだとも言った。もちろん、サウンドアプローチやリリース戦略、時にはプロモーションまで、トータルで高いプロデュース力を発揮する中村がいるからこそ、ドリカムの曲はここまでのポピュラリティを獲得するに至ったと思う。この「天才」と「職人」が生み出す優れたポップミュージックに、これまで少し距離を置いてきた人も、ぜひ今一度、耳を傾けてみてほしい。必ず新しい音楽的発見があるはずだ。(杉浦美恵)
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