彼の一挙手一投足から、まるで金縛りになったみたいに目か離せなかった。
サウンドも声も圧倒的、というのはもちろんある。
しかしそれ以上に、歳を経て人間味を増したマリリン・マンソンの存在感に誰もが呑み込まれていた。
20年弱前、渋谷クアトロで初めて観たアンチクライスト・スーパースターの時の彼の悲しみは、白い雪がどんどん降り積もっていくようなはかなさを感じたが、
今のマリリン・マンソンの悲しみは地中で煮えたぎるマグマのように深く激しく感じられる。
ロッキング・オン6月号で『仮面のカリスマたち』という特集を企画し、もちろんマリリン・マンソンも大きく取り上げたが、
ペルソナがなくとも、もはや彼はありのままで異物感そのものになっていて、
それはもちろん世界の歪さやノイズをそのまま映し出す鏡となっている。
ラスト“ビューティフル・ピープル”の放つメッセージも、よりリアルに響いた。
この時代にこそ必要なロック・スターだ、と改めて感じる。(井上貴子)