初期~グラム時代の『ファイヴ・イヤーズ』がスターへと変身する5年間だったとしたら、今回のテーマは「デヴィッド・ボウイの見たアメリカ」。
アメリカに憧れ、アメリカ人になろうとしたボウイの時期を、“フー・キャン・アイ・ビー・ナウ?”という曲名にたとえているセンスがいい。
そしてこの後、ベルリン時代へと移ったボウイは、「ウィ・キャン・ビー・ヒーローズ、ジャスト・ワン・デイ」と歌った。
このボックスには、『ダイアモンドの犬』『デヴィッド・ボウイ・ライヴ』『ヤング・アメリカンズ』『ステイション・トゥ・ステイション』に加え、なんと
未発表アルバム『ザ・ガウスター』が収録されている!!!
もともとは、トニー・ヴィスコンティのプロデュースによって、1974年にフィラデルフィアでレコーディングされ、ミックスとマスタリングまで終えていた楽曲たち。しかしその後、ジョン・レノン、ハリー・マスリンとのレコーディングでボウイはニューヨークに向かい、結果『ヤング・アメリカンズ』という形でリリースされた。
というわけで『ザ・ガウスター』には、『ヤング・アメリカンズ』収録の3曲――“ライト/Right““恋のささやき/ Can You Hear Me”“幸運の神/Somebody
Up There Likes Me”の未発表ミックスが入っていて、トニー・ヴィスコンティはオリジナル・テープから新たなマスタリングを監修したそう。
もう、とにもかくにもボックス発売が待ちきれないわけだが、そんな興奮が収まらないボウイ・ファンのためにまさに今、映画が2本も上映中。
1本目は、偶然にも同時期に作られ、1976年に公開された映画『地球に落ちてきた男』。
『フー・キャン・アイ・ビー・ナウ?』というテーマにもぴったりだ。
ボウイは映画のための書きおろしの曲を用意していたそうだが、ニコラス・ローグ監督は、俳優としてのボウイを必要としていたとのことで、音楽はママス・アンド・パパスのジョン・フィリップスが担当した。
ローグの意向のとおり、この映画のボウイは異常なまでに美しく奇妙で、居場所のいないエイリアンという設定は、はまり役というよりボウイのための映画といってもいい。
10代でこの映画を観た時は、ひたすら切なかったのを覚えている。異邦人に対する人間の残酷な仕打ちも恐ろしく、悲しくなったが、何十年ぶりに観たら、こんな映画だったんだ、と新しい発見がたくさんあった。
監督らしいユーモアにも溢れていて、何度も笑っている自分にびっくりしたし、
諦念と0.001%くらいのかすかな希望のコントラスト、その願いを音楽に託すというおそろしいほどの深みに、ボウイが亡くなったあとだからこそよけいに心に響いた。
上映の詳細はこちら。http://www.boid-s.com/1955
そして2本目は、来年には本物が日本で体験できる回顧展『DAVID BOWIE is』のドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ・イズ』。
シネロック・フェスで上映中なので、こちらもぜひもう一度観たい。配布中のステッカーまだあるのかな…?(井上貴子)
http://www.cinerockfes.com/