年末特別企画! ロッキング・オンが選ぶ、2021年の「年間ベスト・アルバム」TOP10を発表! 【第6位】

年末特別企画! ロッキング・オンが選ぶ、2021年の「年間ベスト・アルバム」TOP10を発表! 【第6位】

2021年も、残りあとわずか。

新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2021年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。

年間6位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。

【No.6】
『DONDA』/カニエ・ウェスト


年末特別企画! ロッキング・オンが選ぶ、2021年の「年間ベスト・アルバム」TOP10を発表! 【第6位】

マキシマリスト、カニエ面目躍如

カニエ・ウェストとは、21世紀のドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャかもしれない。騎士物語の代わりに聖書を読んでインターネットに耽溺し、キリストの生まれ変わりだと宣言して方方に叱られ、トーンダウンしたものの使徒として音楽で福音を伝え続けながら、米国大統領をも目指す。

10作目『Donda』は、2016年『ザ・ライフ・オブ・パブロ』以降の、結婚して父となり敬虔なクリスチャンとして生きる姿勢を見せたここ5年間の音楽的、思想的な集大成だ。その間、双極性障害を公表すると同時に障害を「スーパーパワー」と定義する離れ業をやってのけた。亡き母の名を冠した『Donda』は、彼の圧倒的な自己肯定力の結晶であり、どこを切っても過剰なカニエ・サウンドが滴り落ちる。

32曲を収録したデラックス版は2時間11分。30名以上の客演、硬質なループにゴスペル由来の鍵盤の旋律を被せるセンス。彼の最強の武器である、さまざまな要素を的確にコラージュする能力を遺憾なく発揮しているからこそ、『Donda』は大傑作なのだ。

神へ帰依する崇高な精神とキム・カーダシアンとの離婚問題を愚痴るダメ男ぶりの落差のはざまで、各客演者が聴かせるラップも粒揃い。ゴスペルを標榜しながら、最新型のギャングスタ・ラップ、ドリル・ミュージックを大々的にフィーチャーする傍若無人ぶり。デラックス版の“Life Of The Party”ではアンドレ3000とヴァースを交換し(て完敗を喫し)、故ビギー・スモールズとDMXの声を入れるという大贅沢も。祈りと死の匂いが強いのも、本作の特徴だ。
 
その一方で、本音しか言えないこの天才は、ネットを跋扈する「キャンセル・カルチャー」が過激化すると中世の魔女狩りになりかねない点を喝破する。取税人や罪人とあえて食事をしたイエスのように、スキャンダルの渦中にいたり、刑期を終えたりしたアーティストを多めに招いたのだ。マリリン・マンソンの起用はギリギリでノミネートされたグラミーの最優秀アルバム賞を逃す決定的な理由になるはず。

それでも怯まないカニエはやはりドン・キホーテの精神をもつ輩であり、壮大な音のコラージュを作りながら、標的を祭り上げ、話題にした直後に叩きまくる現代の偽善を見事に風刺する。稀代のマキシマリストは、時代の空気まで音に埋め込むのである。(池城美菜子)



「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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