イヴ・トゥモアの通算5作目『プレイズ・ア・ロード・フー・チューズ・バット・ウィッチ・ダズ・ノット・コンシューム;(オア・シンプリー・ホット・ビトウィーン・ワールズ)』が、3月17日にリリースされる。前作『ヘヴン・トゥ・ア・トーチャード・マインド』(2020年)からEP『ジ・アシンプトティカル・ワールド』(2021年)にかけて、グラマラスかつパンキッシュなロック表現に接近しつつ、意欲的な自我の解放を繰り広げてきたが、新作『プレイズ・ア・ロード〜』(『噛みはしても消費することのない主を讃えよ(或いは単に、世間でホット)』というタイトルも意味深)は、近作路線の決定打と言えるのではないだろうか。
イヴ・トゥモアは米国生まれのショーン・ボウイによるアーティスト名義のひとつ。エレクトロニカやビートミュージックを経由し、現代エクスペリメンタルミュージックの鬼才として名を馳せることになった。
ワープ・レコーズから発表された『セイフ・イン・ザ・ハンズ・オブ・ラブ』(2018年)は大きな賞賛を浴び、その後は率直なソングライティングとボーカル表現に重心を移した作風へとシフトしたが、ショーンのルーツにあったグラムロックやポストパンクの音楽性を解放すると同時に、クィアな自我をより前面に押し出していった。『プレイズ・ア・ロード〜』は、自我の解放によって多くの認知を得た「その後の物語」である。
新作からのリード曲となった“ゴッド・イズ・ア・サークル”のミュージックビデオでは、不穏な息遣いのコーラスとインダストリアルロックの展開に乗せて、宗教団体のようなグループに連行されたイヴ・トゥモアが拷問とも洗脳ともつかない儀式にさらされる様子が描かれている。最終的に、団体から叩き出されたイヴはボロボロの旗を携えて光に向かって歩いてゆくのだが、自我のロック的解放によって集めてきた好奇の視線が、必ずしも救済にはなり得なかったことを物語るようだ。
大らかなコードストロークから始まるポストグランジ“メテオラ・ブルース”や、悲痛で美しい旋律のポストパンク“フィアー・イービル・ライク・ファイアー”など、豊穣な音楽的バックグラウンドを潜り抜けて真の解放と理解を目指すように紡がれた新作。ぜひ注目してほしい。 (小池宏和)
イヴ・トゥモアの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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