カマシ・ワシントン:現代ジャズのカリスマ、待望の新作リリース! LAシーンの源流を辿り、未来を描く

カマシ・ワシントン:現代ジャズのカリスマ、待望の新作リリース! LAシーンの源流を辿り、未来を描く - rockin'on 2024年6月号 中面rockin'on 2024年6月号 中面

『フィアレス・ムーヴメント』は掛け値なしの傑作だ。12曲86分半というアルバム構成はかなりの長尺だが、カマシの名を一気に轟かせた『ザ・エピック』(2015年)が17曲で3時間弱、続く『ヘヴン・アンド・アース』(2018年)が16曲で2時間半だったことを考えればコンパクトに整理されているし、実際とても聴きやすい。

スピリチュアルジャズの系譜を継ぎつつ、ストラヴィンスキーやラヴェルといったクラシックの作曲家からも影響を受けたカマシは、メロディを組み合わせてハーモニーを構築する手法で楽曲展開を整理するのが非常にうまい。これほどマッシブな音楽性なのに大きな人気を得ている理由はその辺りにもあるのだろうし、そうした楽曲の魅力は多彩な共演者の貢献を通してさらに磨き上げられている。

今作には様々な音楽的文脈が絡んでいるが、特に象徴的なのが自身の属するロサンゼルスの音楽シーンだろう。カマシの娘(2歳になる前)がピアノで初めて思いついたメロディから作られたという“アーシャ・ザ・ファースト”にはサンダーキャットが客演しているし、アウトキャストのメンバーとして一世を風靡したアンドレ3000も、LAシーンの達人を集め自身はフルートを担当したニューエイジ作品『ニュー・ブルー・サン』の雰囲気を持ち込み、“ドリーム・ステイト”で素晴らしい演奏をしている。

そして、その“ドリーム・ステイト”がスティーヴ・ライヒや初期ソフト・マシーンを想起させる仕上がりだったり、“ゲット・リット”にはPファンク総帥のジョージ・クリントンが参加するなど、シーンの源流と現在を繋いで未来へ向かおうとする姿勢もよく示されている。こうした文脈を読み解く楽しみにも満ちた作品と言えるだろう。

カマシによれば、今作はダンスアルバムなのだという。「ダンスは動きであり表現であり、ある意味、音楽と同じ。つまり、身体を通して自分の精神を表現するということ。このアルバムはそれを追求しているんだ」。理屈抜きに心地よく浸ることができ、その上で楽しく思索を促してくれる逸品。今作を引っ提げた来日公演もぜひ実現してほしいものだ。 (和田信一郎)



カマシ・ワシントンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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