エミネム、卑劣な分身スリム・シェイディを葬り“死”と向き合って ―― 4年半ぶりの新作『ザ・デス・オブ・スリム・シェイディ(クー・ドゥ・グラス)』を徹底ロングレビュー

エミネム、卑劣な分身スリム・シェイディを葬り“死”と向き合って ―― 4年半ぶりの新作『ザ・デス・オブ・スリム・シェイディ(クー・ドゥ・グラス)』を徹底ロングレビュー - rockin'on 2024年9月号 中面rockin'on 2024年9月号 中面

現在発売中のロッキング・オン9月号では、エミネムの新作ロングレビューを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。



文=中村明美

エミネムが12作目となる『ザ・デス・オブ・スリム・シェイディ(クー・ドゥ・グラス)』を発表した際ファンは、まさか引退?!と懸念した。が、考えてみれば、1997年『Slim Shady EP』で誕生した分身はこれまでにも何度も残虐な死を遂げ復活してきた。

ただ今回の復活が特別なのは、予告映像で“ウィザウト・ミー”の歌詞がシェイディの墓に刻まれていたり、シングル“Houdini”にもパロディされていること。“Tobey”のMVには『ザ・マーシャル・マザーズLP』のジャケットに登場する子供時代の家もジェイソンのマスクもチェーンソーも復活し血が吹き飛んでいる。つまり過去のペルソナを大々的に再び生きるつもりなのだ。

昨今アンドレ3000やチャイルディッシュ・ガンビーノがラッパー引退を告げる中、エミネムは51歳。2018年『カミカゼ』ではマンブルラップを批判し、2020年にリリースした“ゴジラ”で30秒に225単語もラップしギネス記録認定。現ラップシーンとはスタイルが違いすぎる。何よりシェイディは、暴力的で、女性蔑視で、同性愛嫌悪で、中毒で、過剰。

果たして#MeToo運動後、キャンセルカルチャー真っ最中にどう復活できるのか? 世界が殺す前に、自らが殺すということ? エミネムが今敢えて、彼を世界的スターにした、世界が愛するアンチヒーローを分析し殺すとなると、やはり聴く価値がある。自分のレガシーをどう終わらせるのか? 彼にとっても大きな挑戦で危険な賭けだったはず。

「コンセプトアルバムだから、曲順に聴くように」と告知されたが、始まりは“Renaissance”(再生)で、“ルーズ・ユアセルフ”やデビュー作『Infinite』をも彷彿させるスタイル。ラップ内容は《どうでもいいと思ったら売れた》とスリム・シェイディ誕生のきっかけが語られる。また、ケンドリック・ラマーなどの作品に満足できないヘイター、キャンセルカルチャーに早速物申す。そこからは過去の作品を蘇らせるサウンドとともに、人の気分を害するシェイディが容赦なく復活。エミネムは、心の深い闇を告白できるシェイディという悪の仮面の《中毒だ。一生別れられない》と自覚する。(以下、本誌記事へ続く)



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