なぜ大人になると音楽を卒業する人がいるのだろう? そしてそうならないためには?

なぜ大人になると音楽を卒業する人がいるのだろう? そしてそうならないためには?
 音楽の世界にはあまり「引退」というのは無い。
 
スポーツ選手にはふつうに「引退」があって、現役選手を辞めたあとは監督やコーチになったり、普通に就職する人も多い。
 でも音楽のアーティストの「引退」というのはあまり聞かない。桑田さんもユーミンも、小田和正さんも矢野顕子さんも、60歳を過ぎてもずっと現役のままCDを出してライブをやっている。
ましてや50代のヒロトもマーシーも岡村ちゃんもエレファントカシマシも、当たり前のように最前線で活躍している。
 

でも、リスナーにはどうやら「引退」があるようだ。
 

中学生や高校生の頃には熱心にロックやポップスを聴いていて好きなバンドのライブに足繁く通ったけど、ある時を境にぱったりと聴かなくなった、という人。
 あるいは、大学生や20代の頃はフェスに行ったりアルバムを繰り返し聴き続けたりしていたけど、だんだん聴かなくなって音楽から遠ざかっていった、という人。
 
そういう人はたぶんいま音楽を熱心に聴いている現役のリスナーの数よりも圧倒的に多いはずである。
 あなたのお父さん、お母さん。またはお兄さん、お姉さん。
バイトの先輩や会社の上司にもきっとそういう人がたくさんいるに違いない。そういう話、よく聞くでしょう?

 
リスナーが音楽を聴かなくなる──リスナーを「引退」する理由として一番大きなものは、「新しい音楽について行けない」というものだろう。
 

よく知らない新しいアーティストのCDを聴くぐらいだったら、よく知ってる大好きなアーティストのCDを聴いていたい。とか、
 フェスに行ったらもちろん自分の好きなアーティストを見たいから、よく知らない新しいアーティストを見る時間がない(フェス飯も食べなきゃだし)。とか、
 
そんなふうにしてだんだんだんだん新しいアーティストに接する機会を失っていって、だんだんだんだん新しい音楽から遠ざかっていってしまう。
そして、新しい音楽についていけなくなるにしたがって、音楽自体への興味もだんだん薄れてきてしまう。
好きだったバンドのデビュー10周年とか結成20周年のアニバーサリー・イヤーを楽しんだりはするけれども、もう現役の音楽リスナーとしては「引退」してしまうのだ。
 
 
それならそれで全然いいんだけど、でもあまりにももったいないな、とも思う。
 
 
僕自身はいつも新しいアーティストの新しい音楽を聴いている。
仕事だからだろ、と言われるが、それだけではない。

僕にとっては、音楽は音楽であるだけではなくて、ニュースのようなものでもあるからなのだ。

ニュースだから最新のものを聴くことに大きな意味がある。

今の時代に何が起きていて、新しい世代の人が何を考えて何を語ろうとしているのか、それが新しい音楽には込められている。
新しい音楽は新しいニュースと新しい価値観を運んでくる。

もちろん音楽の本質はそれだけではないけれども、とても重要な部分であることは確かだ。

特に、曲も歌詞も自分たちで書いて自分たちで演奏して自分たちで歌うロックやポップ・ミュージックには、今の時代を生きる今の世代の人たちの最新の声がダイレクトに込められているのだ。
演歌やクラシックとはそこが違う。

古い新聞を何度も読むのも楽しいかもしれないが、今、何が起きているのかを僕は知りたい。
だから僕は新しいポップ・ミュージックを聴く。
 

そんなふうに音楽と接していれば、きっとどこまでも「引退」は無い。
例えば、ちゃんと聴きさえすればWANIMAのメッセージが伝わるおじいちゃんとかおばあちゃんとか、いっぱいいるはずだと思う。
そんな時が来るまでみんなもできる限り「現役」のリスナーであってほしいなあと、総編集長としては願うのであった。(山崎洋一郎)


(ロッキング・オン・ジャパン1月号 コラム『激刊!山崎』より)
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