今の若手世代の音楽シーンから感じること、について書きました

今の若手世代の音楽シーンから感じること、について書きました
今月号のJAPAN、めちゃくちゃ若いです。表紙巻頭のVaundyが22歳。他に掲載したロング記事全20本の内、メンバーが20代(平均)の記事が14本。つまり70%が20代アーティストというわけです。

まあそもそもJAPANは常に「今」の音楽シーンを追う音楽誌だからある程度は若くて当然なのですが、それでもここまで平均年齢が低い号はこれまでもあまりなかったような気がします。「新世代アーティスト特集号」とか「若手バンド大特集」とか、特に意識して作ったわけではないのに、今月号はごく自然にこんな感じになりました。コロナ禍を経て、去年ぐらいからライブやフェスも通常の形で開催できるようになって、新しい世代の新しいアーティストや音楽ファンが音楽の新時代を形成し始めているということなのでしょうか。そうだとすれば最高ですね。この2023年の最初に発売されるJAPANが20代アーティストで占められているということがその印だとするなら、一音楽ファンとしても、JAPANの編集長としても、とても大きな希望を感じます。

新しい世代のアーティストやバンドの歌を聴いたりライブを見ていて感じることがあります。もちろんアーティストやバンドによってそれぞれなのですが、今の20代のアーティストやバンドには共通する「温かさ」のようなものがあると思っています。それは、愛やヒューマニズムのような大きな温かさではなくて、もっとリアルな個の温かさです。冷たくはならない、熱くもならない、温かくいたいという、そんな前提になっている思いを感じさせられる歌がとても多いような気がするのです。それはフェスで数多くの若手バンドを見ていても感じるし、サブスクのプレイリストで流れてくる曲を聴いていても感じます。何かを全否定するような冷たさや、人を鼓舞するようなやみくもな熱さはそこにはないけれども、そのかわりにどんなに悲しくてもそれを受け入れるような、どんなに憎しみがあってもそれを手放すような、この世界で個が生き延びるために必要なポップなサイズの温かさがその曲を包み込んでいるように感じるのです。
その温かさに触れていたい。少なくとも僕にとっては、今の新しい世代のバンドを聴く理由はそこにあります。このわけのわからない時代の中で、その温かさに触れて少しでも確かな何かを共有したいという思い。同じ時代を生きている意味を少しでもポジティブに捉えたいという願い。それが彼らの音楽を「温かい」ものにしているんだと思います。
まだ人生経験も知識も浅いのに、壮大な思想やメッセージを歌おうと思っても、それは体温のない冷たいものになってしまう。あるいは独りよがりに空回って熱くなるだけで終わってしまう。彼らの歌にラブソングが多いのは、だからだと思います。半径3メートルの中に起きるあなたと私、君と僕の物語にはいくらでも温かさを込めることができる。僕の体温、あなたの体温、交わされる言葉の温かさ、そして別れたあとに残されたその余韻、孤独になった自分の心の中に見つける新たな温もり、そんな温かさのすべてを繊細に感じ取って優しい言葉とメロディーで歌うことはいくらだってできる。年齢や人生経験なんて関係ない。思想も哲学も必要ない。半径3メートルの中で生まれた物語を誰よりも完璧に伝える天才アーティストには誰だってなれる。だから今の若手アーティストの多くはそこからスタートする。そしてそこから大きく成長していくのだと思います。同じ20代ですでにそのステージに立ち、早くも高く評価され大きな支持を得ているアーティストやバンドも数多くいます。
コロナ禍で大混乱した音楽シーンがこれからどうなっていくのか1年前までは不安しかなかったのに、もうとっくに新しい時代は走り始めているのです。(山崎洋一郎)

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