2nd『フォーエバー・ネバーランド』で遂に日本デビュー! デンマークの歌姫MØ(ムー)が照らし出す、2010年代ポップの道筋について
2018.10.26 17:37
10月24日、エレクトロポップ・アーティストのムー(MØ)が、アルバム『フォーエバー・ネバーランド』で日本デビューを果たした。かつては、メジャー・レイザー&DJスネイクのダンス・ヒット“Lean On”、同じくジャスティン・ビーバーと共に客演したメジャー・レイザーの“Cold Water”、イギー・アゼリアの“Beg for It”、カシミア・キャットの“9(After Corchella)”といったナンバーの数々で、その歌声を知らしめてきたシンガーソングライターである。
ムーが人々の注目を集めた経緯は、決して明るく華やかなものではなかった。2014年の前作『No Mythologies To Follow』を発表する前に、ディプロのプロデュースによるダークで空虚な“XXX 88”や、パーティーの狂騒とは一線を画した詩情を歌い上げる“Don’t Wanna Dance”のラジオ・プレイなどで知名度を高めると、前述のように世界中のアーティストたちから客演仕事が舞い込むようになる。アナログ色の強いトラックと、憂いをなびかせる美声、そして独自のリリシズムを融合させた『No Mythologies To Follow』の作風は、静かに、しかし毅然と、EDMバブルにスポイルされることのない個性をアピールしていた。
2017年のEP『When I Was Young』は前作アルバムの路線をさらに発展させた重厚な作品だったが、新作『フォーエバー・ネバーランド』では、メイン・プロデューサーにスティント(カナダのエレクトロ・ユニットであるデータ・ロマンスのメンバー)を指名しつつ、ディプロ、チャーリー・XCX、エンプレス・オブらをゲストに迎え、あらためてメインストリーム・ポップの土俵でムー自身がアイデンティティの耐久力を試すような作風になった。憂いや陰りを胸の内に忍ばせ、それを歌やサウンドの端々に滲ませながらも、力強いドライブ感を受け止めさせるトラックの数々が並んでいる。フォーキーなサウンドとフューチャーベースが境目なく融合し、ハスキーなシャウトを投げかけてくる“ブラー”はどうだろう。
『フォーエバー・ネバーランド』の素晴らしさは、例えばビートルズが、ベックが、ダフト・パンクがそうだったように、細分化してゆく時代のサウンドを消化・吸収し、正しくパーソナルな感情表現へと昇華させている点にある。ここには、2010年代を生きてきた一人のシンガーソングライターの表情がくっきりと浮かび上がっているのだ。とっ散らかった情報のスピードに押し流されることのない、とてもタフなポップ・アルバムである。(小池宏和)