デビュー50周年を控えたカーペンターズの、17年ぶりの「新作」が今日リリースされた。『カーペンターズ・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』と題されたこのアルバムは、その名の通り、管弦楽団のサウンドが、美しいカレン・カーペンターの歌声と、色褪せることのないメロディに彩りを添えるもの。そう、何度も何百回も、もしかしたら何千回も耳にしてきた名曲たちなのに、とてもフレッシュな感動がここにある。
荘厳なオーケストラのサウンドが、まるで新たなレビューの始まりを予感させる“オーヴァーチュア”で、舞台の幕開けを感じさせた後、ふいに始まる“イエスタデイ・ワンス・モア”。おなじみのピアノサウンドにのせてカレンの歌声が聴こえ始めれば、華やかな舞台に彼女が登場するシーンが目の前に浮かぶよう。オーケストラのサウンドは、全面に出て楽曲を塗り替えてしまうのではなく、あくまでもともとの楽曲の魅力を静かに彩るように、時にささやくように、時に寄り添うように、そして強力なエフェクトを与えるものとして、カレンの歌声を鮮やかによみがえらせる。
“ハーティング・イーチ・アザー”や“青春の輝き”で響かせる、オーケストラの美しいイントロダクションは、原曲の物語のまさに前奏として、その風景をぐっと際立たせてくれるものだが、過剰にドラマチックに装飾するのではなく、舞台の背景をヴィヴィッドにしつつ、あくまで主人公の躍動感を演出するためにあるものとして響く。また、シュレルズのカバーである“ベイビー・イッツ・ユー”は、もともとカレンの静かな歌声がひそやかに響く名カバーだったが、管弦楽器やコーラスの厚みが加わることで、より彼女の歌声がくっきりとした輪郭を持って聴こえてくのも新鮮で、続く“遥かなる影”も、カレンの歌声がより生々しく耳に飛び込んでくる。
これら美しいポップミュージックを、永遠に閉じこめるというのではなく、新たな息吹を吹き込んで再度、新たな歌として登場させる──しかも原曲のイメージを極端に壊すことなくアップデートしながら。それはやはりリチャード・カーペンターズの情熱のなせるワザだ。そして、どんなに時代が移ろっても錆びることのない歌詞、メロディが放つ切なさや儚さ、カレンのエヴァーグリーンな歌声、どこをどう切りとっても、「ポップ」の原点がすべてここに宿っていたことを、改めて実感するのだ。カーペンターズの歌には、永遠不滅と言えるポップミュージックの条件がすべて揃っている。普遍性とは、世代も時代も超えて「心を揺さぶるもの」として在り続けることである。それを再定義し直して見せてくれたのが本作であるとも言える。
オリジナル制作当時には予算等の都合で必ずしも100%満足のいくレコーディングはかなわなかったというリチャードが、自らが指揮するオーケストラのサウンドと新たなインストゥルメンタル・セクションを加え、デビューから50年を迎えようかという現代に「懐かしさ」を超えた新作としてカレンの歌声を蘇らせたことは、実はかなりエポックメイキングな出来事なのだと思う。この冬、じっくりと堪能したい一枚だ。(杉浦美恵)
『カーペンターズ・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』の詳細は以下の記事より。