痛快でスキャンダラスな映画『ザ・ダート: モトリー・クルー自伝』を観た! 批評家には不評(?)でもファンにはたまらない作品!


3月22日にNetflixで公開を迎えた映画、『ザ・ダート: モトリー・クルー自伝』が話題を集めている。これはそのタイトルが示す通り、2001年に刊行されたモトリー・クルーの自叙伝に基づき、同書の共著者としても名を連ねていた4人のメンバーたちの監修のもとで制作されたもの。当然ながらその推しどころはリアリティの色濃さ、ということになる。

実際、1時間48分に及ぶこの作品には、本来ならばバンド側が封印しておきたいはずのエピソードがふんだんに盛り込まれており、誤解を恐れずに言えば、そうした逸話の連続として物語全体が描かれている。臭い歴史に蓋をしようとしないその姿勢はきわめて潔いともいえるが、逆に言うと「こんなシーンを平気で入れられるの、俺たちぐらいじゃね?」といった悪ノリが過ぎる部分がある印象も否めない。『ボヘミアン・ラプソディ』と『ブギー・ナイツ』を同時に味わえる作品、などという記述もどこかで見かけたが、その両者を足してもこんなお下劣なシーンが出てくることはないはず、といえる場面も多々ある。


とはいえこのバンドの場合、2015年の大晦日をもってライブ・バンドとしての活動に終止符を打った際にもしんみりしたムードは皆無だったし、過剰にシリアスになることのないアッケラカンとしたところが魅力のひとつでもあるわけで、そうした意味においては、まさにコア・ファンが求めていた通りのものになっていると言っていいはずだ。実際、公開直後の反応を受けながらニッキー・シックス自身も「ファンは夢中だが、批評家には嫌われている」などとTwitter上で発言しているが、現在のところその言葉通りの状況であるようだ。

そんななか、この映画撮影中に全身に重度の火傷を負ったとして撮影クルーのひとりがNetflixとバンド側を相手取り、2億円近い治療費と損害賠償を求める訴えを起こしていたりもする。こちらの件の動向も気になるところだ。

ちなみにこの映画公開に伴い、当然のように「もしやライブ活動が再開されるのでは?」といったイカニモな噂も一部で囁かれていたが、バンド側はこれをあっさりと一蹴している。ただ、『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットに伴うクイーン再評価熱上昇ほどの事態にまではならずとも、華も毒もふんだんにあった80年代のロック・シーンに世の興味が向かう可能性はあるはずだし、いまどきのロックが失いかけたものをモトリー・クルーの歴史が教えてくれる部分も少なからずあるように思う。

そうした意味においては、これまでモトリー・クルーや80年代メタルに縁のなかった人たちにも、興味本位で構わないから触れてみて欲しい作品ではある。あの時代の匂いを味わえる作品であることは、確約できる。ただし、間違ってもありがちな感動はお約束できないし、この種の破天荒さを受け入れることのできない人たちも確実にいるはずだ。なにしろこの映画は「世界でいちばん悪名高いバンド」を自認するモトリー・クルーの実像を描いたものなのだから。


最後に補足しておくと、この映画にはモトリー・クルーのみならず、オジー・オズボーンやデイヴィッド・リー・ロス、伝説的なマネージャーやA&R担当者なども登場する。もちろんすべて本人ではなく俳優が演じているわけだが、音楽ファンがそこで注目しておくべきは、トミー・リーを演じているコルソン・ベイカーだろう。またの名をマシン・ガン・ケリーというこのラッパーは、この8月、サマーソニック出演のため日本上陸を果たすことになっている。まさかそのステージで、ドラム・ソロを披露してくれることはないだろうが。(増田勇一)

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