ブルース・スプリングスティーンが『ウエスタン・スターズ』で描き切ったアメリカとロックのリアル。オルタナティブで誠実な彼の「強さ」を見た!

ブルース・スプリングスティーンが『ウエスタン・スターズ』で描き切ったアメリカとロックのリアル。オルタナティブで誠実な彼の「強さ」を見た! - 『ウエスタン・スターズ』ジャケット『ウエスタン・スターズ』ジャケット

2002年作『ザ・ライジング』以降のブルース・スプリングスティーンは、真にハイな状態でロックし続け、無敵と呼ぶべきモードにあった。同時多発テロや政治・経済の混迷までもタフな表現に織り込み、サウンドを更新しながら、フレッシュなエネルギーを保ち続けてきた。カバーや過去曲のリワークを中心に構成された前作『ハイ・ホープス』でさえも、テンションの高さとEストリート・バンドの演奏によって捩じ伏せてしまったところがある。ロック・アーティストの活躍に翳りが見え始めていた時代、しぶとくしなやかにアルバム・チャートの1位を奪取し続けるのが、21世紀のスプリングスティーンであった。


ところが、5年ぶりにリリースされたニューアルバム『ウエスタン・スターズ』での彼は、ずいぶん様子が違っていて驚かされる。60年代アメリカン・ポップスのチャーミングで華やかなソングライティングやアレンジを参照しつつ(“The Wayfarer”でのバカラック風の間奏に触れたときには思わず笑ってしまった)、リッチなサウンドと共にアメリカを旅するロード・ムービーのような作品になっている。“Hitch Hikin’”に《72年製改造車に乗ったカーマニア》というフレーズを綴っていることからも、彼がデビュー目前の頃をイメージしていたことが分かるはずだ。


ではこの『ウエスタン・スターズ』が、古き良き時代のアメリカを描いているのかというと、実はそうではない。スプリングスティーンは、西部を目指し、恋に落ち、人々と出会う若者として物語を綴っているのだが、それはまさに開拓者精神(と血なまぐさい史実)を抱きながら歩んできたアメリカの歴史そのものだ。肥沃な土地や鉱物・燃料資源の夢は、華やかなポップ・カルチャーやエンターテイメントへと移り変わり、文化の栄華を築き、そして衰退していった。“Drive Fast (The Stuntman)”では、《足首には2本のピンが入っていて、鎖骨は折れたまま》のスタントマンのくたびれた独白を描いている。

様々なボックス・セットのリリースや、膨大なライブ・アーカイブの公開、そして『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』など、ここ数年の彼がキャリアを振り返る機会に恵まれていたことは我々リスナーも知っている。そこで彼が新たに歌うべきテーマを見つけたとすれば、それは単なる甘美なノスタルジーではないはずだ。“Western Stars”のミュージック・ビデオで、彼はデビュー前に歌っていたようなバーにいる。しかしその姿は、若く希望に満ちた男ではなく、顔に皺の刻まれた大ベテランのロック・シンガーなのだ。《今夜、西部のスターたちはまた眩く煌めくはずさ》と歌うメロディには悲哀が纏わりつき、優しく宥めるようなスライド・ギターとストリングスに包まれている。

そう、古き良きアメリカの夢は、ロックは、かつての栄華を取り戻すことはない。時間は先にしか進まない。「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」と叫びながら新たな混乱が引き起こされる時代に、アメリカの、ロックの、疲弊と衰退を描き切ってしまうこと。それは紛れもなく、オルタナティブで誠実な「強さ」に他ならないはずだ。その地平に立たなければ、本当の意味で未来を切り開くことなどできはしない。ブルース・スプリングスティーンは今でも、タフで知的なロックスターなのである。(小池宏和)
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