サマソニ常連のThe 1975、今回の出演が過去3回のそれとは比べものにならないほど超重要である理由

サマソニ常連のThe 1975、今回の出演が過去3回のそれとは比べものにならないほど超重要である理由

昨年11月から始まったThe 1975の最新ツアー「Music For Cars」が大反響を呼んでいる。特に今夏は軒並みヘッドライナー・クラスのスロットで多数のフェスに出演し、シンガロングに次ぐシンガロング、ダンスに次ぐダンスで祝祭空間を生み出しまくっているようだ。その風景は、まさにThe 1975が時代の顔となったことをひしひしと感じさせてくれるものだ。


ムービング・フロアの演出やゴスペル・コーラスを盛り込んだ今年のブリット・アワードのステージも最高にチアー! この“Sincerity Is Scary”などはサマーソニックの夕暮れのスタジアムで聴いたら至福の時間になることは間違いないでしょう。改めて、『ネット上の人間関係についての簡単な調査』のナンバーが、テン年代ポップ・ミュージックの表層を軽やかに遊ぶ前作『君の寝ている姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』までのフェーズから、それを丁寧に掘り下げた先でヒューマニック&リアルな温もりを獲得していることが確認できる。


「Music For Cars」ツアーは、女性ダンサー&コーラス2人を含む編成が基本フォーマットになっているようだ。前作のツアーから大きく進化したもののひとつが、マシュー・ヒーリーのボーカリスト、そしてメッセンジャーとしての成長だろう。以前のマシューはステージで半裸になってセックス・シンボルを装い、ポップ・スターをどこか自虐的なスタンスで演じてきた人だったが、今の彼のパフォーマンスはよりポジティヴなショウマンシップを感じさせるものだ。声も大きく、真っ直ぐオーディエンスに向けて放たれていく。


The 1975をそんな高みに連れていったのが、傑作『ネット上の人間関係〜』であったのは言うまでもない。同作でマシューが自身のトラウマや弱さを曝け出す勇気によって手に入れたものは、そんな自分を育んだデジタル・エイジの病理のリアルな描写であり、その荒野で共に生きるミレニアル、Z世代へのシンパシーであり、緩やかな連帯だった。商業的にも批評的にも最高の評価を得た『ネット上の人間関係〜』は2018年を代表する一枚となり、トレンディなポップ・ロック・バンド期を終えて「本当に重要なバンドになりたい」と言ったマシューの言葉は、まさに有言実行となったのだ。


しかもThe 1975はその成功に安住することなく、既に次のフェーズへと歩を進めている。ニュー・アルバム『Notes on a Conditional Form』のリリースが2020年2月21日(金)に決定し、オープニング・ナンバー“The 1975”の音源が早くも公開となったのだ。スウェーデンの10代の環境保護活動家、グレタ・トゥーンベリのスピーチを全編にわたってフィーチャーした“The 1975”は、音楽系ポータルサイトのみならずニュース報道系メディアでも取り上げられるなど大きな話題に。The 1975の全アルバムの1曲目は常に“The 1975”で、前作『ネット上の人間関係〜』までは必ず歌い出しの歌詞は「Go down, soft sound」であるというルールが設けられていたわけだが、彼らは今回グレタのスピーチによって自分たちのそのスタイルをついに破ってみせた。そう、今の彼らにはスタイルよりも優先させるべきことがあるのだ。


ちなみに新曲の“The 1975”は『ネット上の人間関係〜』収録の“The Man Who Married a Robot / Love Theme”を彷彿とさせるピアノ・テーマを持ったナンバーで、両曲共にスポークン・ワーズ・チューンであることから、この2曲を表裏の関係として聴くことも可能だろう。 ネット依存の男の孤独を陽気なボイスが物語るアイロニックなナンバーだった“The Man Who Married a Robot~”だが、同曲の中で主人公の男は「@SnowflakeSmasher86」なるハンドルネームを使ってネット上を徘徊している。「Snowflake」とは右派がリベラルのことを「お花畑」的なニュアンスで揶揄する際に使うスラングで、トランプ政権発足以降、ミームや罵詈雑言と共にネット上でしばしば頻出するホットワードだ。つまり、この男は欧米版ネット右翼、いわゆるオルト・ライト的な背景を持った人物だと暗示されているのだ。そんな男がインターネットが全てとなった生活の中で自分を見失い、現実社会から乖離していく様を描いた“The Man Who Married a Robot~”は、まさに2016年以降の世界を蝕む精神の荒廃、その最前線たるネット社会の痛烈なカリカチュアだったと言っていい。


でも、“The Man Who Married a Robot~”から“The 1975”へと至って、世界は鮮やかに反転している。オルト・ライトが跋扈するトランプ時代の問題をカリカチュアやアイロニーを用いて描写、批評するフェーズから、問題の、現実の当事者として対峙しなければならないという決意のフェーズへ。グレタの柔らかくも凛としたボイスが「今こそ反逆のとき」と告げる“The 1975”は、そんなThe 1975の静かなる覚醒を克明に表しているからだ。『Notes on a Conditional Form』についてかつてマシューは「夜っぽいアルバム」、「家庭的で親密な内容になる」と語っていたが、つまりそれはポップ・スターの鎧を脱いだ素の自分として、ひとりの人間として直接性に訴える作風になっていることをうかがわせるものでもある。

『Notes on a Conditional Form』の全貌が見えてくるのはまだまだ先で、同作のナンバーがセットリストに入ってくるということではないけれど、彼らの現在のモードがこうして『ネット上の人間関係』の先でさらに醒めていることは間違いない。The 1975は、そんな再びのターニングポイントを目前にした状態で日本にやってくるのだ。過去3回にわたってサマソニに出演してきた常連の彼らだけれども、今回ばかりはこれまでとは全く次元が異なる飛躍のステージになるはず。その瞬間を絶対に見逃さないでほしい。(粉川しの)
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