カオスな年をカオスに遊べ! 豪華ゲスト集結のゴリラズ最新作『ソング・マシーン:シーズン1−ストレンジ・タイムズ』を織りなす9つの物語

カオスな年をカオスに遊べ! 豪華ゲスト集結のゴリラズ最新作『ソング・マシーン:シーズン1−ストレンジ・タイムズ』を織りなす9つの物語

デビュー・アルバムから20年の節目を迎えたゴリラズが、その記念すべき年にリリースしたユニークなニュー・アルバムが『ソング・マシーン:シーズン1−ストレンジ・タイムズ』だ。

ただし、彼らは同作をアルバムとして作り始めたわけではない。1曲ごとにゲストを招き、単発でレコーディングを続けていった『ソング・マシーン』プロジェクトの集積物を、便宜上アルバムと称しているという理解が正解だろう。

本作はTVドラマ風に「シーズン1」と位置付けられ、各ナンバーは「エピソード」と呼ばれている。つまり本作は『ソング・マシーン』プロジェクトが作ったドラマの「シーズン1」であり、そのタイトルが『ストレンジ・タイムズ』だという体裁なのだ。

そんな背景を持つ作品だけに、『ストレンジ・タイムズ』のサウンドはよく言えばバラエティ豊か、悪く言えば脈絡がない。ポップ・ソング製造機(=song matchine)に毎回異なる材料をぶち込み、出来上がってくるものをワクワク待つような出たとこ勝負感が、本作の大きな魅力だ。

『ストレンジ・タイムズ』からは9曲分のエピソードが既にMVとして公開されている。ここではMVと共に本作の「ドラマ」の内容を紐解いていくことにしよう。

【エピソード1】“Momentary Bliss”(ゲスト:スロータイ&スレイヴス)


今年1月30日、『ストレンジ・タイムズ』の「エピソード1」として公開されたこの曲でゲストに迎えられたのは、スレイヴスとスロータイという若手の2組だった。

デーモンはアフリカ・エクスプレスでスレイヴスとコラボ済み、スレイヴスはスロータイのデビュー・アルバム『Nothing Great About Britain』に参加済みと以前から交流があった彼らだけに、今回もスカ・ビートに乗せて息の合ったコラボを披露している。

開放感溢れるスタジオに皆が出たり入ったりしながら賑やかにレコーディングしている様子が活写されたMVもチアーなムードで、ステップを踏むデーモンのご機嫌な姿も。

ただし、英国のEU離脱の前日に公開された同曲に「英国の怒れるイカれた若者」の代表であるスロータイ&スレイヴスをフィーチャーしたのは偶然ではないはず。ブレグジットによって最も不利益を被る若い彼らが「もっとうまくやれたはず」だと歌う、その重いメッセージが軽妙なビートの裏に横たわっているのだ。

【エピソード2】“Désolé”(ゲスト:ファトゥマタ・ジャワラ)


アフリカ・エクスプレスにも参加しているマリ出身のシンガー、ファトゥマタ・ジャワラを迎えた同曲は、ファトゥマタのルーツに根ざしたアフロ・ポップ、現在はパリに暮らす彼女のメロウな歌声を生かしたボサノバなど、ゴリラズらしい多国籍クロスオーバーを聴かせる一曲。デーモンの少し鼻にかかったフランス語のボイスもいい味を出している。

MVは王侯貴族も愛した高級リゾート地であるイタリアのコモ湖で撮影され、湖でクルーズする船の上でバンドがプレイするというこれまたリラックスしたバカンス感満載の仕上がり(スマートにクルーザーを操るデーモンのちょいワルオヤジ風の横顔にも注目)で、ひとりスタジオに置いてけぼりにされたマードックがちょっと寂しそう。

【エピソード3】“Aries”(ゲスト:ピーター・フック&ジョージア)


誰がゲストか知らなくとも、イントロわずか30秒で「フッキーだ!」と気づくシグネチャーなベース・ライン、そして「ニュー・オーダーだ!」と心の中で叫ばずにはいられない、ぎこちなくつんのめるドラム、パーカッションのブレイクを繰り出しているのはジョージアだ。

80年代シンセポップから多大な影響を受けているジョージアはニュー・オーダー・チルドレンと呼ぶべきアーティストなわけで、ピーター・フックと彼女の邂逅を演出したゴリラズのセンスには脱帽だ。MVではクラフトワークを彷彿させるシンセ・ループ(弾いているのはジェームズ・フォード)に乗って、2Dとマードックがバイクを疾走させている。

疾走感はあるものの、そこに爽快感はない。リラックスしたエピソード1、2とは対照的に、空は薄暗く、今にも雨が降り出しそうな不穏なムードが立ち込めたMVなのだ。ちなみに“Aries”が公開されたのは、イギリスが最初のロックダウンの只中にあった4月9日だ。

【エピソード番外編】“How Far?” (ゲスト:トニー・アレン&スケプタ)


今年4月30日に亡くなったトニー・アレンは、デーモンにとってヒーローの一人だった。デーモンはアレンからアフロビートの薫陶を受け、また二人はザ・グッド・ザ・バッド・アンド・ザ・クイーンのバンドメイトであり、歳の離れた友人でもあった。

この曲はそんなアレンへのトリビュートとして彼の死の2日後に急遽リリースされたもので、今回のプロジェクトのシングルとして正式に数えるものではないという。“How Far?”はアレンの笑い声で始まり、彼はここで「みんな立ち上がれ」とメッセージを残している。アレンにとって遺作となった本曲に彼の貴重な肉声が刻まれた意味は大きいと思う。

【エピソード4】“Friday 13th” (ゲスト:オクタヴィアン)


MVの冒頭、暗雲垂れ込めた空ではゴロゴロと雷が鳴り、彼らのアジト「Kong Studio」のガレージ前に2Dたちが乗っていたバイクが停められていることから、“Aries”とこの曲の世界が地続きであることがわかる。

「13日の金曜日」なる不吉なタイトルとは裏腹にサウンドはソフトなR&B、寄る辺のない自我の不安を浮かび上がらせていくトリップホップ・チューンだ。フランス生まれ、イギリス育ちのラッパー、オクタヴィアンは「BBC sound of 2019」にもエントリーした若手で、ここでは彼ら世代の刹那的ストリート・ライフを飄々と語り紡いでいる。

【エピソード5】“Pac-Man”(ゲスト:スクールボーイ・Q)


7月20日公開、スクールボーイ・Qをゲストに迎えたこの曲以降のエピソードは、全てパンデミックの渦中でレコーディングされたナンバーとなっている。最初に聴こえてくるのはファニーなエレクトロ・ファンクだ。長引くステイホームで他にやることがなくなったのか、2Dはひたすら「パックマン」をプレイしている。

無精ヒゲを生やし、むさ苦しい出で立ちで時間を浪費している2Dのダメ人間っぷりは、あの時期の誰もが一度は経験した心理状況なんじゃないだろうか。ゲームに没頭するあまり目はイッてしまっているし、時間の感覚も失われつつある2D。しかしそんな彼とは対照的にスクールボーイ・Qのラップは鋭利で、とことん醒めている。

「ムショに辿り着く前に頭ブチ抜かれて死ぬ」と彼が畳み掛ける一節が、ブラック・ライブズ・マターの怒りに直結しているのは言うまでもない。つまり、この曲では2Dが象徴するパンデミックの非日常と、スクールボーイ・Qが象徴するBLMの過酷な日常が隣り合わせになっているということだろう。ヌードルにゲーム機のコンセントを引っこ抜かれ、2Dが我に返るエンディングもいい。私たちは、遅かれ早かれ現実と向き合わなくてはいけないのだから。

【エピソード6】“Strange Timez”(ゲスト:ロバート・スミス)


ロッキング・オンの最新号でデーモンは「ロバート・スミスの歌声が凄すぎて、僕も歌おうとしたけど上手くいかなかった」と語っていたが、実際この“Strange Timez”はロバート・スミスの独壇場と言っても過言ではないゴス・エレクトロ・チューンだ。「生きるには奇妙な時代だ」と彼が歌うその時代とはもちろんパンデミック下にある現在であり、その奇妙さを宇宙空間で、惑星にデカデカと映し出されるロバスミのアップで表現したMVも秀逸な仕上がりだ。

途中、『2001年宇宙の旅』のモノリスを模したと思しき漆黒の石柱が登場する。モノリスは時に人間を飛躍的に進化させ、時に滅ぼしもする諸刃の剣的な物体だが、マードックは意を決してそれに手を伸ばす。最後、惑星に刻まれた「BE THE CHANGE」なる一節も含めて、それは私たちが、遅かれ早かれ変わらなくてはいけないというメッセージなのではないか。

【エピソード7】“The Pink Phantom”(ゲスト:エルトン・ジョン&6lack)


「現実と向き合うこと」、「変化を恐れないこと」をそれぞれ描いたエピソード5、6は、どちらも明確にコロナ下の時代性を反映したナンバーだった。冒頭で『ストレンジ・タイムズ』にサウンド的な脈絡はないと記したが、こうやってエピソードを順に追って行くとドラマ的な脈絡がどんどん浮かび上がってくるのが本作の醍醐味だ。

アルバムのコンセプトを事前に固めず、曲単位で作っていったからこそダイレクトにこのカオスな年を映し取ることができたのだろう。エルトン・ジョンをゲスト・ボーカルに迎え、「俺はどうやら夢の中、夏が引く線を超えられないんだ」と歌われるこの曲も、社会から隔離されたロックダウンの日々の疎外感を象徴している。それにしてもアニメ版エルトン、キャラクターとしての完成度が異様に高い。

【エピソード8】“The Valley of The Pagans”(ゲスト:ベック


11月半ばの現時点でエピソードがアップされているのはこの“The Valley of The Pagans”までだ。意外にも初のコラボとなるデーモンとベック。ほぼ同世代、90年代オルタナの青春を分かち合う天才2人が渾然一体となってバウンシーなニューウェイブ・ポップを畳み掛ける痛快なナンバーだ。

阿吽の呼吸でリレーするツインボーカルはほとんど継ぎ目がわからないほどで、彼らがずっと以前から互いの音楽を理解し、リスペクトし合っていたことがうかがえる。そんな2人に「気分は上々、完璧な歌があるから」「いいものだな、すべて思いのままというのは」と歌われると俄然ポジティブな気分になるし、勇気をもらえるのだ。


『ソング・マシーン』プロジェクトは現在も進行中で、来年には「シーズン2」が決定している。また、12月12日、13日の2日間にわたって「Song Machine Live」を配信する。(https://gorillazlivenow.com/)ゴリラズにとって配信ライブ、バーチャル・ライブはお手の物だろうし、アルバムに参加した豪華ゲストの登場も期待できる。こちらも楽しみに待ちましょう!(粉川しの)



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