2000年代後半からボーカロイドシーンで名を挙げたwowakaだが、音楽が肉体を乖離してひとり歩きしていく感覚が消えなかったという。そのある種のフラストレーションから次なるフェーズに進むべく、そもそもの憧れであったバンドで音楽をやろうと結成したのが、このヒトリエである。ボーカロイド時代からの高速・高音・少女性に託した歌詞という3つの要素を引き継ぎながらも、今wowakaが追求しているのはバンドであることの必然性だ。そしてこのファーストアルバムで、ヒトリエは見事にバンドとしての実体を手に入れた。前作『イマジナリー・モノフィクション』までに顕著だった自由自在に切り替わるリズムやひねりの効いたフレーズといったギミックに代わり、性急なビートの中でも音のグルーヴや厚みが際立つようになった。その結果、よりシンプルにストレートに身体に訴えかけてくる、プリミティヴな気持ちよさが現れた。肉体性に対する飢餓感からその道筋が始まったヒトリエにとって、フィジカルなエネルギーや生々しい熱気が蠢く今作は、バンドとしての覚醒を告げる一枚だ。（若田悠希）