これは切ない1枚。1997年にわずか30歳でアルバム『グレース』(1994年)だけをリリースして亡くなってしまったジェフ・バックリィ。彼がレコーディング契約を結んだ直後にスタジオで1人で録音した音源の本作には、胸をえぐられるような歌唱が並ぶ。全10曲、多くが1993年2月のもので、そのうち“グレース”と“ドリーム・オブ・ユー・アンド・アイ”以外はカヴァーとなっているが、ジェフによるカヴァーと言えばレナード・コーエンの“ハレルヤ”の絶品ヴァージョンをすぐに思い出すように、この人の奇跡の歌声とヴォーカル・テクニックによって取り上げられると、その曲のまた違った魅力があふれ出す。
ここでもボブ・ディランの“女の如く”をはじめ冴え渡っていて、スライ・ストーンや映画『バグダッド・カフェ』の主題歌“コーリング・ユー”あたりは納得だが、レッド・ツェッペリン(“夜間飛行”)やジャンプ・ブルースの王様ルイ・ジョーダンには驚かされたし、何よりもザ・スミスの“心に茨を持つ少年”が素晴らしく、声に棘がむき出しになったような歌が聴ける。いずれにしても失われた才能の大きさに、改めて悔しくなるアルバムだ。(大鷹俊一)
失われたダイヤモンド
ジェフ・バックリィ『ユー・アンド・アイ』
発売中
発売中
ALBUM