ニック・ケイヴの新作ということで、いさんでレヴューを引き受けたものの、今回ばかりは……そう簡単に言葉が出てこない。併せて鑑賞すべきドキュメンタリー・フィルム『One More Time with Feeling』が現時点で未見だということも理由のひとつだが、それ以上にやはり、昨年7月に実子が亡くなったという状況が反映され、死と喪失をテーマにした、あまりにヘヴィな内容になっている点が重すぎる。もちろんニックの過去作品も、精神のダークな領域を扱ってきたのは今さら言うまでもないが、そのうえで本作は、事態の特殊性から、もうひとつ先の段階まで到達しているように思う。
近年は、ピアノやストリングスの叙情的な響きと併せて、エクスペリメンタルでアヴァンギャルドなサウンドの要素が、活動初期とはまた違う感触で前に出てきていたと感じられたが、今作ではそれらが静謐さを保ったままミニマルに凝縮され、時に語りにも近いニックの声とともに恐ろしく印象深い音像を生み出している。決して気楽に聴けるタイプの作品ではないが、いったん入り込んだら魂の奥底まで引き込まれてしまいそうなアルバムだ。(鈴木喜之)
絶賛する前に絶句
ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ『スケルトン・ツリー』
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