他者を泣かせる隣人愛

カート・ヴァイル『ボトル・イット・イン』
発売中
ALBUM
カート・ヴァイル ボトル・イット・イン

前作『ビリーヴ・アイム・ゴーイン・ダウン…』は、自身が連綿と流れる大衆音楽の大河の一部であることを明確に意識したペイヴメントとでも言うべき、古今東西様々な音楽的作法を消化したソングライティングと、気を抜くと崩れ落ちてしまいそうなルーズな演奏との組み合わせが絶品の一枚だった。その後、シンガー・ソングライターの旨味だけを凝縮し抽出したかのようなコートニー・バーネットとのこれまた傑作コラボ作を挟みつつ、長期にわたった自らのツアーを終えたタイミングで、そのまま本作のレコーディングは始められたという。これまでも多作な人ではあったけれど、明らかに今は一種の創作ハイに入っている時期なのではないだろうか。

本作に収められた全13曲、まず圧倒されるのは、曲毎に細かく音色や奏法が使い分けられたエレキとアコギの鳴りの良さ。10分前後の長尺曲が3つもあるのに、繊細なギターのフレーズを耳で追っているだけで心地よく聴き終わってしまう。また、その確たる支柱を彩るように、ピアノやバンジョーなどが添えられ、いつになく伸びやかな歌唱と調和している。また、『ボトル・イット・イン』とは家族や仲間など限られた親しい人間だけが存在する空間を指しているとのことで、たしかに本作では従来以上にパーソナルかつエモーショナルに振れた楽曲が並んでいる。しかし、それが表現のスケールを抑えつけるどころか、逆にポップなフックとして爆発的な膨張へと導いているところに、やはり今のカート・ヴァイルの絶頂感を覚えずにいられないのだ。

ニール・ヤングが生ける伝説と化して以来、これまで幾千の「ネクスト・ニール・ヤング」が現れては消えていった。僕はこのカート・ヴァイルこそ、いずれその「格」に辿り着く男だと本気で思っている。(長瀬昇)



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カート・ヴァイル『ボトル・イット・イン』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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カート・ヴァイル ボトル・イット・イン - 『rockin'on』2018年11月号『rockin'on』2018年11月号
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