2月に12インチ・ヴァイナルとして1500枚限定リリース&デジタル配信された本作は、映画『サスペリア』のオリジナル・サウンドトラックの未発表曲集となっている。さすがにOSTを聴かずに本作だけを聴くという人はいないと思うが、実際、本作を独立した音源集として聴くことにほぼ意味はない。OST本編はもちろんのこと、『サスペリア』の映画自体も観た後でこそ、あの恐怖や不穏な体験のフラッシュバックとしての効果を発揮する作品なのだ。
厳密には7曲中3曲が完全未発表曲、残り4曲はOST収録曲の別バージョンとなっている。未発表曲で特筆すべきは“ア・カンヴァセーション・ウィズ・ジャスト・ヨア・アイズ”だろう。同曲はストリングスの不協和音やピアノの優美と不気味な呻き声や物音といった、OST本編の90分を構成した要素が1曲に全て盛り込まれたもので、トム・ヨークが『サスペリア』の世界のより直接的な手触りや質感たることを目指した同作のサントラ作りの極意がここに凝縮されているのだ。
一方、OST収録曲の別バージョンとして興味深いのは、ゴブリンのオリジナル・テーマとトムのオリジナルの意匠が融合され、OSTでも重要曲の1つだった“ヴォルク”の別バージョンで、まるで同曲を成形前の素材に戻すように、スクリューのような無限音階や逆回転、大量の金属の粒を撒き散らし、下から激しく振動を加えたような効果音など、構成する音の断片が3パターンに分解されている。そこにはOSTの制作プロセスの原点を垣間見ることができるはずだ。トムが他人の表現と自分の表現を初めてダイレクトに呼応させた『サスペリア』が、彼のソロ・キャリアに大きな影響を与えたことは想像に難くない。フジロックのステージが本当に楽しみだ。 (粉川しの)
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