憂鬱を打ち負かすビート

チック・チック・チック『ワロップ』
発売中
ALBUM
チック・チック・チック ワロップ

強打する、打ち負かすといった意味のタイトルを冠したチック・チック・チックの新作。言葉通り強いリズムに満ちたアルバムだ。2000年代初頭のディスコ・パンクのムーブメントで頭角を現した彼らも気づけばベテランとなり、『ワロップ』が8作目。同作は、メンバーがこれまでの人生で楽しんできたダンス・ミュージックのあれこれを凝縮したような内容である。

ファンク、ディスコ、ロック、ハウス、トリップホップ、IDMなど曲ごとに様々な要素が溶けこんでおり、ベックザ・ヴァクシーンズなどを手がけたコール・M・グライフ・ニールやホーリー・ファックのグラハム・ウォルシュがプロデュースを務めている。そこには長年のコラボレーターであるパトリック・フォードも名を連ね、『シェイク・ザ・シャダー』にも参加した女性ボーカリスト、ミアー・ペースが、今回もニック・オファーとともに歌っている。そういう点では従来の延長線上にある、いつものチック・チック・チックだ。

同時に、ダンス・ミュージックの様々な側面を提示する本作で彼らは自由な発想をみせる。例えばシングルの“セルビア・ドラムス”には、セルビアのツアー中にドラマーがアイフォンで録音した素材を使い、荒々しいリズムになっている。それでいて曲としてはポップにしあがっているのが面白い。いつもの彼らでありつつ好き勝手にやっている。そのバランスが心地よい。

都市再開発での人々の対立を題材にした“ドミノ”をはじめ、憂鬱や孤独、迷いなど少なからずネガティブなことも歌っている。だが、リズムで自分を変えようと訴える1曲目“レット・イット・チェンジ・ユー”のように、享楽のビートが聴くものの気分を変えてくれる。彼らは10月に来日する。 (遠藤利明)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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チック・チック・チック ワロップ - 『rockin'on』2019年9月号『rockin'on』2019年9月号
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