シェリルはこの11枚目が最後のアルバムになると宣言している。なのにジャケットに本人の顔が写っていないのは、主役は自分ではないという意思表示なのかもしれない。何しろこれは、彼女が若い頃に憧れた大御所たち(ウィリー・ネルソンやクリス・クリストファーソン)と、今の自分を刺激してくれる若手たち(ジェイソン・イズベルやマレン・モリス)をゲストに迎え、共に歌い、プレイするコラボレーション集。超豪華キャストを揃えると共に、カバーという形でもストーンズほか4組に敬意を捧げ、世代を超えた音楽の糸(=thread)を紡いでいる。
そんなゲストの顔ぶれから推測できる通り、本作で鳴らされているのは、カントリーに根差したロックでありポップ。ナッシュビルに移り住んで久しいシェリルにとって、最もナチュラルなサウンドなのだろう。中でも、究極の理想と位置付けるエミルー・ハリスの全能の声に彩られた“ノーバディーズ・パーフェクト”は出色の美しさだ。
とはいえ本作は単なるお祭りアルバムではなく、言いたいことはしっかり伝えている。ジョニー・キャッシュとバーチャル共演するセルフ・カバー“リデンプション・デイ”では反戦を訴え、チャックDの参加を得たヒップホップに接近する“ストーリー・オブ・エヴリシング”では、目下の米国の有り様を嘆いていて。そして、今より厳しかっただろう男社会を生き延び、シングル・マザーとして二児を育てている彼女は、自分が学んだ人生の教訓も分かち合う。どれだけ経験を積もうと世界には驚きがあると歌う“フライング・ブラインド”然り、闘って守る価値があるのは愛だけだと説く“フォー・ザ・セイク・オブ・ラヴ”然り。音楽活動をやめるわけではないが、大きな句点が打たれた感がある。 (新谷洋子)
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