10月に来日したスティングは、本人を含め8人編成のバンドで代表曲の数々を演奏した。“孤独のメッセージ”、“見つめていたい”などポリス時代のヒット・ナンバーも円熟したボーカルで楽しませてくれたわけだが、今回発売されるボックス・セットでオリジナルを聴き返すとやはり別のものなのだ。
『エヴリ・ムーヴ・ユー・メイク:ザ・スタジオ・レコーディングス』は、デビュー40周年記念で制作されたLPボックスを同内容でCD化している。スタジオ・アルバム全5作と、シングルB面曲やレア・リミックスを集めたボーナス・ディスクの計6枚だ。ポリスのキャリアをたどり直してあらためて感じるのは、彼らはロック・トリオの新たな形を確立したということ。
それ以前のトリオは、クリームのようにメンバーそれぞれが演奏で自己主張をぶつけあい熱いバトルを展開する、あるいは、エマーソン、レイク&パーマーのようにキーボードを何種類も使い、3人とは思えない厚みのサウンドを生み出す。そういうものだった。それに対しポリスは、デビュー時にはレゲエのビートを取り入れつつ、荒々しい音色でパンクを装っていたが、すぐにセンスのよさを発揮するバンドになった。ギターは余計な要素をそぎ落とし、弾きまくらない。だが、ドラムは細かいニュアンスをつけていく。シンセなどをダビングするにしても重たい響きにせず、音の隙間を活かしてクールに仕上げる。
ポップに聴こえるポイントはしっかり押さえる一方、熱さや厚さとは遠いそのアレンジが魅力的だった。そして、スティングのボーカルだ。ハスキーで独特なあの声が曲の表情を豊かにするから、音数が少なくてもリスナーを満足させられる。ポリスとは、トリオの新たなスタイルの発明だった。 (遠藤利明)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』x12月号に掲載中です。
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