彼らだから到達した、リアル魂の炸裂傑作!!

グリーン・デイ『ファザー・オブ・オール…』
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ALBUM
グリーン・デイ ファザー・オブ・オール…

3分間のリアリティ。

昔、シングル盤がポップ・ミュージックの主だった時代、その言葉はまさにリアルだった。ビートルズの最初の大ヒット“プリーズ・プリーズ・ミー”は2分、キンクスの“ユー・リアリー・ガット・ミー”は2分14秒、ザ・フーの“マイ・ジェネレイション”はちょっと長くて3分17秒。だからこそ6分09秒もあったボブ・ディランの“ライク・ア・ローリング・ストーン”は、大事件だった(という話は今回はパス)。

グリーン・デイのビリー・ジョーが、最近は長い曲はイヤだ、聴く気がしないと広言してたが、そんな気分を純粋培養した約3年ぶり、通算13枚目は全10曲(日本盤は+1曲)、トータル26分ほどの中に引き締まった音がぎっしり詰まっている。しかもほぼ曲間なし状態なので一気に沸点に持ち上げられる感覚が最高だ。

信じられるヤツなんているのか、と衝動をストレートに吐き出すタイトル曲、続いて《嘘つきやろう》と連呼する“ファイア、レディ、エイム”はもちろんトランプ大統領に向けられた曲だが(純粋に曲としても優れている)、それらに込められた苛立ち気分が曲や演奏をさらに燃え上がらせる。続く“オー・イエー!”は、ライブでのシンガロングがすぐに浮かぶ曲で、ジョーン・ジェットの“ドゥ・ユー・ワナ・タッチ・ミー”のサンプリングも話題になったが、もとはグラム・ロック時代に活躍し、その後、性的虐待事件で今も投獄中(!)のゲイリー・グリッターのヒット。グラム期に誕生したプリミティブなロックに、パワーアップされた曲のフォーマットをシャープな新曲に盛り込むことで、新旧のエッセンスをミクスチャーし、さらに強力にしてやるんだ、という強い意志が感じられる。ここらのセンスの広がりは、今回プロデューサーとして起用された、PUFFYウィーザーのプロデュース経験があるブッチ・ウォーカーの貢献も見逃せない。

今作についてビリー・ジョーは、グラムやモータウンのテイストを入れたと話しているが、鋭いギターのカッティングと手拍子で始まる4曲目の“ミート・ミー・オン・ザ・ルーフ”こそ、まさにモータウン的な特徴を巧みに取り入れたもので、フックや追っかけコーラス、ベースラインに特徴がはっきりと聴き取れるし、最後、AMラジオ風に終わるところに深~い愛を感じる。

モータウンは、60年代に白人的なポップ・センスやコード進行と黒人的なビート感を融合させた楽曲と職人的なスタジオ・ミュージシャンによるサウンドを武器に、シュープリームスやマーヴィン・ゲイマイケル・ジャクソンのいたジャクソン5等が次々ヒットを放ったわけだが、それがグリーン・デイ流にアップデートされ素晴らしく魅力的なビート・ナンバーに仕上がっている。

そのビートが重いベースでつながるのが本作最長トラック(といっても3分45秒)の“アイ・ワズ・ア・ティーンエイジ・ティーンエイジャー”で、後半になるに従いダイナミックな高揚感へと運ばれる展開はベテランならでは。

アナログ盤だとB面トップを飾る“ステーブ・ユー・イン・ザ・ハート”は本作一番の問題曲で、尖ったノイジーなギターと叫びでスタートするストレートなR&Rは思わず“ヒッピー・ヒッピー・シェイク”なんて曲を連想してしまうのだが、そんな典型的なサウンドが、奥深くではじつに細かくアクセントに変化を付けられ新鮮なのには驚かされる。そんなこのトラックに象徴的だが、本作で彼らはロックやビート・ミュージックが、かつて持っていた衝動や原初のエモーションに改めて向かい合い、ノスタルジーではない新しい生命を吹き込もうとしている。

その熱気はグリーン・デイらしいリフを基調とした“シュガー・ユース”のパンク魂爆発へとつながり、一転して、もっともヘヴィでサウンド密度の濃い“ジャンキーズ・オン・ア・ハイ”では、深く広がっていく。そのハードな展開を和らげるようにアナログの針音が冒頭に入る“テイク・ザ・マネー・アンド・クロール”はお得意のボーカルとユニゾンのギターで加速していく曲で、最後の〈モータウン+グラム〉といった趣のかっこいいナンバー“グラフィティア”へと突入する。

本当に時間的には一気に聴き終わるのだが、後に残るボリューム感は巨大だ。複雑なメッセージや音楽性を盛った音を作るのが、そんなに難しくない、そして音楽的な知識や偏差値がとてつもなく上がった時代に、ある意味で使い古されたスタイルをモチーフとしつつ、新鮮なものとして作り上げることや挑戦が、どれほど困難、かつ勇気のいるものか想像がつく。まさに現代の3分間のリアルがここにはある。 (大鷹俊一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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グリーン・デイ ファザー・オブ・オール… - 『rockin'on』2020年3月号『rockin'on』2020年3月号
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