何らかの事情で看板シンガーが不在となっても、そっくりに歌える別人を見つけ出して活動を継続するケースは今や珍しくない。当然そういったバンドは代表曲の再現性ばかり重視するものだが、ストーン・テンプル・パイロッツの場合は違う。残された3人のメンバーは、新たなボーカリストとしてジェフ・グートを採用するにあたり、歌唱力以上に作曲能力を重視したそうだ。一昨年リリースされた再起作でも、詞と歌メロはジェフが書いたという。フル・アコースティック仕様となったニュー・アルバムも、安直な再録企画などではなく、純然たる書き下ろしの新曲で作り上げられたものだ。故・スコット・ウェイランドとは、なかなか思うような活動ができなかった3人が、根本的なところからバンドの歴史の針を再び先に進めようとしている決意が伝わってくる。
そして、そんな本作は、アルバム・タイトルがスペイン語で「喪失」の意、1曲目のタイトルが「サヨ・ナラ」、2曲目に関しては「3つの願いが叶うなら、スコットとチェスター(・ベニントン)を呼び戻したい」というディーン・ディレオによる昨年の発言などを確認するまでもなく、ほぼ全編で亡き友人への想いが綴られた内容になっている。ゴリゴリのハード・ロックを期待する向きにとっては、やや変則的な作品かもしれないが、カリズマ級フロントマンの代理を立てて存続を試みるバンドが形にした新譜の中でも、特に耳を傾ける価値を持ったアルバムであることは間違いない。
ただ、過去の楽曲にアコースティック・アレンジを施したボーナス・トラックが始まった瞬間、そこまでとは異質の艶かしさが立ち昇るのにはゾクッとさせられる。それでも、ちょっと厄介な亡霊も込みで、彼らは歩みを進めていくのだ。 (鈴木喜之)
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