『JESUS IS KING』はこのアルバムの中から生まれた

サンデー・サーヴィス・クワイア『ジーザス・イズ・ボーン』
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サンデー・サーヴィス・クワイア ジーザス・イズ・ボーン

2019年10月に超問題作『JESUS IS KING』をリリースしたカニエ・ウェスト率いるゴスペル・プロジェクト、サンデー・サーヴィスとしての新作。『JESUS IS KING』がカニエの信仰心を直截に吐露する内容だったように、これもまた彼の信仰心から生まれたアルバムだ。ただ、違うのは、『JESUS IS KING』はあくまでもコンテンポラリーなヒップホップとしての、まぎれもないカニエの新作なのに対して、このアルバムは彼が自身の信仰心を確かめていくプロセスともいっていいもの。つまりは、れっきとしたゴスペル作品だということだ。というわけで、カニエ自身の楽曲も含んだ、ゴスペル・ソング19曲が収録され、圧倒的な内容とパフォーマンスになっている。やっぱりこれがベースにあるアーティストは強いなとつくづく思う。ファンの聴きどころはカニエの曲になるけど。では、自分の信仰心の具体的な実践ともいえるゴスペル・パフォーマンスをわざわざ作品化するのはどうしてなのか。それはカニエ自身の信心の原体験としてゴスペルがあり、それを聴いてほしいからだ。『JESUS IS KING』の成り立ちは、カニエ自身も言っているように信心とゴスペルにあらためて触れたことがきっかけとなったからだ。

『JESUS IS KING』のひとつの核心となるのは、“Follow God”で歌われている父との関係性をあらためたというテーマだ。幼いうちからシングル・マザーの家庭で育ったカニエは父への反発心が強かったが、その反発心は父への愛慕の裏返しでしかなかったという気持ちを確認することがこのアルバムのテーマでもあるのだ。前作『イェー』以来明らかにした、自身の双極性障害と向き合うことを通して、心の問題と自分の父親との関係性は切っても切り離せないものだったと自覚したということなのだ。

端的に言って、カニエは2009年のテイラー・スウィフト事件以来、逆境に打ち克つ巨大なアーティスト・エゴを打ち立てることでその時々の難局を凌いできた。その行き着く形が予定されていた新作『Yandhi』となるはずだったのだ。それがあらためて今回のような形で自分自身と向き合うことになったのは、やはり音楽がそうさせたのと、なにかしらのきっかけで再確認した自分の信心のせいだったはずだ。ただ、そこで謙虚さを取り戻したからこそ、タイトルは『JESUS IS KING』というものになったのだ。その一方で、この信心が生まれた場所は幼少の頃の教会やゴスペル経験だったというのが『Jesus Is Born』が指しているものなのだ。 (高見展)



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サンデー・サーヴィス・クワイア ジーザス・イズ・ボーン - 『rockin'on』2020年3月号『rockin'on』2020年3月号
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