細やかに描かれる「夢」の音

ティコ『サイマルキャスト』
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ALBUM
ティコ サイマルキャスト

昨年『ウェザー』で女性ボーカルを大々的にフィーチャーし、その叙情的なサウンドスケープを更新したティコ。本作は、その『ウェザー』の楽曲を一部再収録しつつ、全編インスト・トラックで統一したアルバムだ。初期からティコの持ち味であるサイケデリックなインスト・ナンバーを前面に押し出した上で、『ウェザー』以降でないとあり得ない音にしっかりと進化しているのが聴きどころだ。

アルバムは『ウェザー』最終曲から始まり、その「続き」であることを強調するが、新曲の“オールライト”に突入すると別の流れを持った作品であることがわかる。現在のティコの編成を活かした緻密なバンド・サウンドでありつつ、ライブ・バンドとしてのダイナミズムを目指していた近作とは少し方向性を変え、より内的なエネルギーを感じさせる楽曲が並ぶ。曲によってはかなり直接的に(初期からの影響元である)ボーズ・オブ・カナダの『ミュージック・ハズ・ザ・ライト・トゥ・チルドレン』の素朴なドリーミーさを感じさせるところもあり、フェスのライブを思わせる高揚感よりも、ベッドルームでのチル・アウトがイメージされやすいアルバムかもしれない。ただ、それが現在のティコがたどり着いた細やかなバンド・アンサンブルで表現されるために、その解像度は恐ろしく高い。

インスト・ナンバーでありつつ親しみやすいメロディ・ラインがはっきりあるのもティコらしく、それがムーディなサウンドと重なることでメロウなフィーリングをじわじわと立ち上げる。『ウェザー』は言葉の力も使ってストーリーを呼び起こすアルバムだったが、本作ではティコが本来持つ音のイメージ喚起力を信じ切っている。濃淡に富んだグラデーションによる「夢」が見えるようだ。(木津毅)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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