なんと思われようとも一直線に、ひたすら今の愛を歌い倒す

ジャスティン・ビーバー『チェンジズ』
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ALBUM
ジャスティン・ビーバー チェンジズ

15年の『パーパス』から5年ぶりとなるジャスティン・ビーバーの新作。前作をリリースした当時は数週間に一度のペースで大々的にゴシップ・ニュースを賑わせるような一悶着をどこかしらで起こしている、そんなお騒がせアーティストだったジャスティン。それが今ではすっかり落ち着いてしまっていて、それはモデルのヘイリー・ボールドウィンとの結婚が大きな影響となっているのは間違いない。そこがまさに今度の新作の内容だ。つまり、その才能ゆえに手のつけられない鬼っ子だった自分は変ったというのが『チェンジズ』の意味するところなのだ。

そのせいか、どこまでも攻撃的で、エッジのあるサウンドと聴きやすさとを同時に求めながら、本格的なR&Bを目指した『パーパス』とはほとんど対照的な内容の作品となっている。とはいえ、もともとR&Bへの憧れからこの道に入ったジャスティンだから、基本的にはR&Bをベースにした楽曲ばかりで、その意味では『パーパス』と較べても見劣りはしない。ただ、どうしても自身の現在の心境を聴かせたいというアルバムでもあるので、シンガー・ソングライターとしての性格がとても強く出た内容となっているし、そこが今回の聴きどころだ。

そんな心境の最たるものがオープナーとなっている“オール・アラウンド・ミー”。自分と一緒にいてくれるパートナーに恵まれたことの充実感を歌い上げるもので、横になる時も車で出かける時もいつも一緒で、これ以外の状況はもはや考えられないし、きみにはいつも自分の周りにいてもらう必要があるんだと、そう歌い上げる曲なのだ。単刀直入というか、このアルバムのメイン・テーマをここまでずばりと頭に持ってくるこの腰の据わり方はすごい。

基本的に本アルバムは、この曲で提示されたモードが徹底して貫かれていて、それはヘイリーが好きで好きでしようがないというものだ。この歌詞的内容が欧米では一部不評を買っているようだが、とてもリアルなで説得力のある曲として出来上がっているのは確かだし、そこは評価されるべきところだ。それに、ただの浮かれたラブ・ソングになっているわけではなく、しっとりとその思いを歌い上げるジャスティンのメロディと歌はやはり、とてつもなく魅力がある。こんなふうに歌われたら誰だって嬉しくなるし、そんな歌を自分は歌いたい、なぜならヘイリーが好きだから、というこのモチーフはとてもリアルなものなのだ。要は、まったく借り物ではないオリジナルなラブ・ソングになっているところが素晴らしい。それにこのアレンジとサウンドもまた非の打ちどころがなく、かなりの名トラックだともいえるのだ。

このある意味ではのろけ節といってもいいモチーフが極まるのは、シングル“ヤミー”だ。ヤミーは美味しそうという意味で、それをヘイリーへの形容として使っていてそれがほどほどに官能的に響くものになっているのだが、これを「♪ヤーミーヤム、ヤーミーヤーミー、ヤーミーヤム」と延々と続けるこの展開もすごい。特にキメキメのR&Bバラードのサウンドで固めているだけに、この「ヤーミーヤム」がアホっぽいようでいて、実はものすごくしっとりとこの曲のグルーヴに乗っているのだ。なかなかこういうシンプルなようでいて、ぶっ飛んだ表現というのは出来るものではないので、この言語感覚についても、普通ではありえない才能を感じてしまう。

というわけで、基本的にこの愛をひたすら歌い続けるR&Bとなっているのだが、リスナーのためにもさまざまなゲストとの共演も図ってみせている。たとえば、「きみは完璧で至らないところはなにひとつない」と相手をほめたたえる“インテンションズ”では、やや単調になりがちなジャスティンのボーカルの展開の合間にミーゴスのクエイヴォがひとしきりMCを披露して、見事にパフォーマンスを締めてみせる。しかも、テーマ的に完璧にジャスティンの気持ちとシンクロしていて、さすがに共演の鉄人だけある。この曲についてはサウンドもまた見事で、浮遊感の漂うエレクトロ・キーボードのアレンジが、ジャスティンの歌う、愛のもの思いにときめき感を与えていて余計にリアルなのだ。

しかし、なんといっても共演で一番素晴らしいのはケラーニの客演する“ゲット・ミー”で、「なんできみはそれほどまでにぼくをわかってくれるのか」と繰り返し歌うジャスティンへの返答となる彼女のパフォーマンスがすさまじく盛り上がる。それにしても、徹頭徹尾、この内容で貫いたジャスティンはやはりただものではない。まったく予定調和のない愛のアルバムなんてそうそう作れるものではない。 (高見展)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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ジャスティン・ビーバー チェンジズ - 『rockin'on』2020年4月号『rockin'on』2020年4月号
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