既にヒットメーカーといえる立ち位置を築きながらも、身構えてしまう瀟洒な門構えにすることなく、「お邪魔しま～す」なんて誰もがフラリと立ち入れるタイトル＝入口にするところに表れた強い意志。そして1曲目に《余裕のある人はかっこいい／でも余裕のない人生は燃える》と歌う“黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を”を置き、今も下剋上にある精神性を見せる。恐るべき揺るがなさであり、真の大衆音楽家だと思う。

ベスト盤と思えるほどの全方位制覇感は、シングルとして耳なじみのある楽曲が数多く収録されているからというだけではない。様々な年代の音楽を、リスペクトを捧げるように大切に、でも2020年の彼女らしい手法で昇華。歌詞でも、五感を刺激する表現や、目の付け所が絶妙な比喩が炸裂。特に《乾電池みたいな女だよ》（“朝陽”）には痺れた。この時代に、この日々に、転がっている感情や出来事が、きらめくポップスに磨き上げられている。ヒットするだけではない、愛されるであろう一枚。なお、参加ミュージシャンもバンド好きなら唸らずにはいられない面々なので要注目！（高橋美穂）

『ROCKIN'ON JAPAN』2020年10月号より