ストーリー・テリング全開の代表作、待望の再生

ルー・リード『NEW YORK[デラックス・エディション]』
発売中
BOX SET
ルー・リード NEW YORK[デラックス・エディション]

こんな時だからこそ出てきたのだろう。長年待たれていたルー・リード後年を代表する傑作『NEW YORK』のリマスターを軸としたDXボックスの登場だ。オレの曲のすべてはニューヨークを舞台とした男の物語だ、と広言していた彼ならではのストーリーテラーぶりが全開のアルバムであり、愛してやまない街が新型コロナによって大変な被害を受ける現況にエールを送るかのようだが、このオリジナル・アルバムが出された89年頃もニューヨークにはエイズが蔓延していた。それがルー自身の友人等が亡くなるなど身近にも迫り、さらに長年続く不況下でホームレスが著しく増加し社会問題化するなか、ルーは街の空気感をとらえた楽曲を揃え、毅然と困難な事態と対峙する作品を作りあげた。

レコード会社をRCAからサイアーに移籍しての第一弾ということで心機一転の意識も反映し、打ち込みなどに取り組んだりした前作と違いシンプルに2本のギター、ベース、ドラムスとの編成に立ち戻り、より生々しい歌を聴かせているが、今回のリマスターでさらに鮮度を増し、ギターの弦のこすれ具合や声のトーンなどスタジオの緊迫感が手に取るように伝わってくる。その頃アンディ・ウォーホルが亡くなったこともありジョン・ケイルとの仲も復活、ここではモーリン・タッカーも2曲で参加し、まさにこの街にふさわしい物語を更新したのだった。

晩年をパートナーとして支えたローリー・アンダーソンを中心に、先頃亡くなってしまったプロデューサーのハル・ウィルナー、そして現在はルーの正式なアーキビスト(情報の査定、収集、整理の仕事)であるドン・フレミングといった猛者たちが、この傑作にふさわしい再生をと心を砕いていた結果が音の一粒一粒に乗っかってきて感動させられる。

ディスク1はオリジナル14曲のリマスター、ディスク2は、同曲同順でライブ・バージョンが収められ、ディスク3は「Works In Progress/Singles/Encore」と題されたレア・トラックやデモ集で、スタジオでのリハーサル・トラックなど、これまで殆どこの手のものが出てこなかった人だけに嬉しい。

さらにDVDは89年8月13日にモントリオールのシアター・セントデニスで行ったコンサートの模様で、このアルバムのサウンドの肝のひとつであるロブ・ワッサーマンのダブルベースやルーとマイケル・ラスケとのギターの絡みは最高。《お祭り騒ぎしてるときじゃない》(“ゼア・イズ・ノー・タイム”)がさまざまな意味でリアルなときだからこそ、ルー・リード降臨! (大鷹俊一)



詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。


ルー・リード NEW YORK[デラックス・エディション] - 『rockin'on』2020年10月号『rockin'on』2020年10月号
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