新世代のミューズ誕生

ビーバドゥービー『フェイク・イット・フラワーズ』
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ALBUM
ビーバドゥービー フェイク・イット・フラワーズ

この秋一番の注目作降臨。本来ならば9月に開催されたSUPERSONIC 2020で初来日を果たし、奔放な魅力が振りまかれたライブ・ステージの話が本号でたっぷり繰り広げられていたはずのビーバドゥービー、待望のファースト・アルバム『フェイク・イット・フラワーズ』は、期待以上のものが詰まっている。

何よりもまず、高い注目や期待が集まる中で、これほど感性をそのままさらけ出した自然体の歌を聴いたのは、ずいぶん久しぶりな気がする。どこにも気負いはなく、次々と身体の奥底から湧いてくるメロディやラインを素直に吐き出すナチュラル感が音一つ一つに変換されているのが、聴いてて何よりの快感だ。

ビーバドゥービーはフィリピン、イロイロ市で00年に生まれ、3歳からウェスト・ロンドンに移住して育ったベアトリス・クリスティ・ラウスのソロ・プロジェクトで、学校ではずいぶんと辛い体験もあったようだが、音楽が大きな力となりヤー・ヤー・ヤーズエリオット・スミスなどのインディ系の音を聴いたりしながら17歳の頃に中古のギターを手に入れ曲を書くようになる。そうした中で“Coffee”がYouTubeにアップロードされ数日で30万回以上のストリーミングを記録。さらにカナダのラッパー:Powfuのシングル“death bed(coffee for your head)”でフィーチャー。その厭世的、絶望的なラップと、彼女の癒やし感たっぷりな歌が紡ぐ空気が00年代世代に圧倒的に支持され、一気に注目の的となる(TikTokで41億回、Spotifyで5億回の再生を記録なんて話もある)。

才能にいち早く反応したのがThe 1975ペール・ウェーヴスウルフ・アリス等を擁するDirty Hitレーベルで、契約、18年にフィジカル初EP『Lice』をリリース、さらに7曲入りの『Patched Up』、同じく7曲入りの『Loveworm』(これにはアコースティック・バージョンの『Loveworm(Bedroom Sessions)』もある)、5曲入り『Space Cadet』を次々と発表し、その間NMEの新人賞を始め、各誌で受賞しまくる。そんなシンデレラ・ガールのファースト・アルバムだ、そりゃー盛り上がるのも当然だろう。

アルバムはリード・シングルで《同情なんてしてほしくない/まあひどい目には遭ったとは思う》なんてドキッとするフレーズが振りまかれる“ケア”で始まるが、印象的なメロディの彼方から「かわいそうなんて思って欲しい訳じゃ全然ない。只、私がどんな辛い思いをしてきたかをわかって欲しいの」というこの曲に対するコメントが生々しく突き刺さってくるし、さらに「高速道路をドライブしている90年代末期の映画の様なヴァイブスが込められている」なんて言葉が加わると、同時代性や適度なオルタナ感がリアリティとなって積み上がってくる。

プロデュースは元ザ・ヴァクシーンズのピート・ロバートソンとペール・ウェーヴス等のエンジニアを務め、ビーバドゥービーのEPも手がけてきたジョセフ・ロジャースで、呼吸したりギターと対話するような感触を誠実に音化することでリスナーとの距離感を限りなく接近させているし、“ソーリー”でストリングスを分厚く絡めたり、“ホレン・サリソン”ではいろいろ脚色したサウンド作りもするのだが、たとえ音数が多くなったとしても彼女の感性から生まれた曲のニュアンスを何よりも尊重しているのがわかるので、すべてが説得力を持ち、結果的に統一感溢れるアルバムとなっている。

カレンOやダニエル・ジョンストンのカバーや“I Wish I Was StephenMalkmus”なんて曲を書くほどのペイヴメント愛を表明したり、じわりと滑空を始めサビでは思いっきり爆発する“チャーリー・ブラウン”や力強い“トゥゲザー”などは、00年代以降のオルタナどころか古くはニルヴァーナ、ダイナソーJr.、ピクシーズなんてところにまでつながる糸が、くっきり、はっきり浮かぶ。それがあるからこそ彼女の「『フェイク・イット・フラワーズ』は私の人生のほとんどを1枚のアルバムにしたもの」という言葉にパワーを感じるし、柔らかな楽曲、歌唱でも核心の強靱さがダイレクトに伝わる。身の回り半径1メートルのところから生まれてきた曲への共感が広がることで、さらに強度を増していく光景もまた見えてくる。

スタイルとして特別際だって新規なことをやっているわけじゃないのだが、しなやかなメンタリティがそっと耳元で歌いかけるような“ケア”、“ファーザー・アウェイ”もあれば激しいバンド感を持った曲、ベッドルーム直送の“ハウ・ワズ・ユア・デイ?”やちょっと怖い“ヨシミ、フォレスト、マグダレン”があったりとバラエティに富みつつ、アルバムとして聴かれるべき統一性も兼ね備え、今年後半の大収穫となった。 (大鷹俊一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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ビーバドゥービー フェイク・イット・フラワーズ - 『rockin'on』2020年11月号『rockin'on』2020年11月号
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