電子音楽家としての本域

ジョン・フルシアンテ『マヤ』
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ALBUM
ジョン・フルシアンテ マヤ

去る2月、チリ・ペッパーズとして13年ぶりにパフォーマンスを披露したフルシアンテ。コロナ禍で復帰作の制作は休止となったが、一方、近年ライフワークと化したソロ作品のリリースは止まる様子がない。この春から初夏にかけて、ソロ・プロジェクトのトリックフィンガー名義で2枚のアルバムを発表。そして、今年3枚目となるのが本作である。本人名義では6年ぶり、11枚目のアルバムになる。

09年にチリ・ペッパーズを再脱退して以降、ソロでは一貫してエレクトロニック・ミュージックを追求してきたフルシアンテ。本作においても同様で、アシッド・ハウスやIDMへの傾倒に端を発したその音楽スタイルは変わらない。加えて、本作ではブレイクビート・ハードコア~90年代のUKレイヴやジャングルの影響が色濃く感じられ、制作にあたっては当時の音源に強くインスパイアされたと聞く。フルシアンテといえば10年来、テクノ~ブレイクコアを代表するヴェネチアン・スネアズとユニットを組むなど親交を深めており、本作がスネアズのレーベル〈Timesig〉からリリースされているのも象徴的だ。トリックフィンガー名義の初期作では習作的な実験色も目立ったが、本作ではよりフロア・ユースでクラブ・ミュージック的な先鋭化がなされている。ボーカルを排して全編インストで構成されたトラックリストからも、その徹底した姿勢が窺えるようだ。

「以前ほど歌ったり歌詞を書いたりすることにもう興味がない」とは本人の弁。事ほど左様に、フルシアンテの近作には電子音やマシーンへのフェティシズムのようなものが横溢している。しかし、であればこそ、再びフルシアンテがギターを手にしたときどんな“ケミストリー”が生まれるのか、期待が膨らむというものだろう。(天井潤之介)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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ジョン・フルシアンテ マヤ - 『rockin'on』2021年1月号『rockin'on』2021年1月号
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