捧げられたスペシャル・ライブ

アークティック・モンキーズ『ライヴ・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール』
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ALBUM
アークティック・モンキーズ ライヴ・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール

アレックス・ターナーを先頭にアークティック・モンキーズというバンドの男気が爆発するライブだ。18年6月7日にロンドン、ロイヤル・アルバート・ホールで、世界各地の紛争で影響を受ける子どもの支援を目的として行ったチャリティ・ライブの模様で、世界15ヶ国で、19年だけでも10万人以上の子どもたちにさまざまな形で手を差し伸べているという慈善団体〈War Child UK〉のために立ち上がったものだが、同組織が今回の新型コロナ禍の影響でさらに絶望的な状況で多大な損失(最大200万ポンドとも)を被るおそれもあるというので、ライブ盤としてもリリースし、支援を進めようというわけだ。

彼ら自身が特別なライブと呼ぶだけに、込められた熱量がハンパないし、各誌、各メディアのベストを総なめにした6枚目のアルバム『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』をリリース直後、それも含めて発表した6枚のアルバムすべてを全英No.1にぶち込んだ人気バンドへの観客の熱気は改めて言うまでもないが、嬌声というよりも特別なライブに立ち上がったバンドへのリスペクトが熱波となって音の隙間から吐き出されてくる。

それに応えるセットリストが嬉しいところ。5月2日の米サンディエゴに始まり5月後半にはヨーロッパへと展開していた最新ツアーの真っ最中だけにバンドのテンションは極めて高い。しかも、このツアーは最終的に19年4月の南米まで約1年間続いたのだが、序盤ということもあり、アレックスを始めジェイミー・クック(G)、ニック・オマリー(B)、マット・ヘルダース(Dr)の全員が元気いっぱい、楽曲も全アルバムから満遍なくピックアップされ、さながらライブ・ベスト盤的になっているのもグループの思いの表れだろう。

というのも『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』は改めて言うまでもなく、その年を代表するほどの傑作であったが、同時にある部分で論議も呼んだ。アークティック・モンキーズならではのソリッドでガレージ感もあるギター・サウンドにどっぷり浸るのを期待していたようなファンを驚かせたのが、月面に立つ架空のホテルを舞台にした、極めてトータリティの高い作品で、アレックスの別プロジェクト、ザ・ラスト・シャドウ・パペッツのようだと言われたりもした。確かにピアノをプレゼントされたことが曲作りに大きな影を落としているのは間違いないのだが、そうした多元的なアルバムの曲をどうやって『ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット』(06年)や『フェイヴァリット・ワースト・ナイトメアー』(07年)、そしてひときわ高く評価された前作『AM』の楽曲たちと融合させてくれるのか、その答えを示すのがこのツアーだった。

ライブは“フォー・アウト・オブ・ファイブ”で幕を開け、誰もが好きな2nd『フェイヴァリット・ワースト・ナイトメアー』に収録の“ブライアンストーム”から3rd『ハムバグ』の“クライング・ライトニング”、そして5枚目の『AM』の“ドゥ・アイ・ワナ・ノウ?”へと一気に突き進み、一瞬にしてグループの現状を痛烈に焼き付ける。

しかもトム・ロウリーやタイラー・パークフォードなど、気心の知れたサポート・メンバーたちによって繰り広げられるサウンドの幅は広く、明らかにこのセットならではの世界になっている。それが最高によくわかるのが、ライブ後半、キャメロン・エイブリーも加わり新作のタイトル・トラック“トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ”、同アルバムからの“シー・ルックス・ライク・ファン”、次に1stの“フロム・ザ・リッツ・トゥ・ザ・ラブル”が演奏されるが、十数年の時が圧縮され、予想もしないダイナミズムとなって襲いかかる快感は、まさにグループが狙っていたものでもあろう。

“ドント・シット・ダウン・コーズ・アイヴ・ムーヴド・ユア・チェア”のシンガロングで会場の興奮も最高潮に達し、本編最後として“アイ・ベット・ユー・ルック・グッド・オン・ザ・ダンスフロア”がシーンに登場したときの激情と共にぶつけられ、観客誰もが特別なライブに立ち会えた幸福感に浸っている。そしてロマンチックな“スター・トリートメント”に始まり“ザ・ヴュー・フロム・ザ・アフタヌーン”、“アー・ユー・マイン?”で締めくくられるアンコールも完璧だ。

アーティスティックな方向性だけに比重を置くのじゃなく、初期の荒々しい部分も尊重し、現状をさらけ出すことによって生まれる熱と現場感、それがこのライブ盤を、さらに特別なものにしている。(大鷹俊一)



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アークティック・モンキーズ ライヴ・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール - 『rockin'on』2021年2月号『rockin'on』2021年2月号
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